始まりの食事
そして夕食の時間が来る。
時和とヴァレリ、由紀奈、エリー以外はダイニングルームに集まっていた。
五日間のうちに自然と料理を運ぶ人が決まっていた。
総出で料理を運んだのは、エリーが初めて料理を作ったときだけだ。
「茜、時和が食事のあと話あるって言ってた」
珍しくリアムが人前で口を開く。
「そ、そう」
茜が曖昧な返事をする。
「リアム君はもうここに慣れたかな」
クラパムが笑顔で話しかける。
リアムはまだ茜と時和にしか慣れておらず、固くなる。
「えっと……、少し、だけ」
「そっか、ゆっくりでいいから僕ともよろしくね」
クラパムは茜や時和の事をうらやましく思っていた。
でも、時間はあるからゆっくりでもいいとも思っている。
扉のノック音が聞こえる。
「失礼いたします。料理の方をお持ちしました」
いつものように時和の声で扉が開き、料理が運ばれる。
席に料理を運び終え、四人も席に座る。
「時和、今日大変だったみたいね」
セリアが茜の方を見ながら笑みを浮かべる。
「全くです、言われたことをしてくれませんし……」
「ごめんってば!明日はちゃんとするから」
茜が慌てている様子を見てセリアは満足気な表情を浮かべていた。
「時和もなかなかだけど、茜もいい反応するわね」
ぼそっと声が漏れる。
「セリア様、ここは僕より茜のほうが楽しいと思いますし、茜だけを」
「ちょっと待ってよ、私よりこの男の娘のほ……」
擦り付け合いの途中茜から鈍い音がした。
時和が茜にデコピンをして、黙らせた。
「では、そろそろ食べるぞ、いた――」
「ちょっと待ってください」
ケインが挨拶をしようとすると、湊が急に止める。
「どうした?」
「それがですね――」
ケインの問いに答えようとしたとき、コンロンが水を飲もうとしたのが目に入った。
「コンロン、飲むな!」
その瞬間、気温がぐっと下がったように感じた。
「湊、呼び捨てだけならまだしも、命令か。いくら私が幼いとはいえ流石に許さんぞ」
コンロンは肩を震わせながら湊に話す。
ミランが小声で湊に伝える。
「湊、流石にカバーできない」
「判ってる」
ミランも黙り込んでしまう。
「グラスに粉が付いています。今日、グラスを持ってきたのは由紀奈だよね」
湊がグラスの汚れについて指摘をした。
由紀奈は頷く。
「浩正、この粉が何か調べれるよね」
浩正はイソティス城にお給仕する前、植物研究をしていた。
そして今も趣味で顕微鏡などを使い研究をしている。
「まだ何とも、研究をしているといっても植物限定ですので、顕微鏡で見るだけになりますが」
「別にいい、このグラスを使って調べてきて、今すぐ、一応手袋をしてやって」
浩正はケインの方を見る。
するとケインは、頷いて浩正を部屋へと行かせる。
「ミラン、皆のグラスを洗ってきて、ミランも手袋はして」
湊が急に支持をしたりして、ミランは戸惑っていた。
「湊、どうしたの」
「……」
ミランの質問には答えず黙っていた。
するとケインが湊に聞く。
「湊、君の昔話をしてもいいかな」
「……別にかまいませんが、言っても俺の言葉を聞いてくれる人は減ると思いますが」
ケインが湊を拾う前の話を始める。
拾われる前、湊は『汚れ仕事』をしていた。
『汚れ仕事』の内容は罪人を殺す。
いわば処刑人。
その中に、拷問、暗殺なども入っている。
あるとき、罪人を逃がしてしまい、湊自身が処刑される予定だった。
どうにか逃げきり、森で倒れた。
その時にケインに会った。
「湊、なんで今まで黙ってたの」
ミランが不安そうに聞く。
「言ってどうなるの」
「それは……」
湊の短い一言にミランは喉を詰まらせた。
「そして、その時罪人を処刑日より早く殺せと命令された時、毒などを使って殺していた」
そこにいる人は皆、黙っている。
「その中にグラスにスズランの花粉を付けて殺すという物もあった。全く同じに見えたから止めた」
水に毒を入れないのは、罪人から警戒され飲めと言われたときに飲めるようにするためだ。
「それって、私を疑っているって事ですか」
由紀奈が湊を睨みながら聞く。
「そうだ、疑いを晴らすために今話し合っている」
しっかりと、湊は答える。
「その粉が毒だとしても、私と決めつけることは出来ないと思いますが」
「昨日の夜から朝にかけて森の奥にある池に咲いていたスズランが一本無くなっていた」
「……だから?」
「俺は毎日、夜中にそこに行って心を癒している。昨日そこに由紀奈いたよね」
「えぇ、いったよ」
由紀奈は何か隠している様子は見せない。
実際、由紀奈は白なのだろうか。
そこに浩正が帰ってきた。
「湊、あの粉の正体ですがスズランの花粉でした」
浩正は知らないが、周りは湊の話を聞いているので悪寒が走る。
「ありがとう、ミラン、グラス洗ってきて。浩正は由紀奈の部屋に行ってスズランがないか調べて来て」
ミランはすぐにグラスを洗いに行った。
浩正は、ケインの顔を見て行く。
由紀奈は、ポケットに忍ばせていたナイフを湊に向かって投げた。
湊は気づいたが体がすぐに動かなかった。
湊は死んだ、と思った。
鉄と鉄が交わる甲高い音が鳴り響いた。
アグナが、剣でナイフをはじいていた。
湊は複雑な感情になっていた。
湊は、元処刑人。
そんな人を騎士であるアグナが守っていいのか。
湊は、ひそかにこれが罪滅ぼしになるかとも、思っていた。
「なんだ、そんな顔して何か不満か」
「あ、いえ。ありがとうございます」
そう言いつつも、暗そうな顔をしている。
アグナは、湊の思っている事を予想する。
「湊は、昔は人を殺していた。だから私たちに、見捨てられるんじゃないか。人を殺していた事について、そこから逃げた事についての罪をここで死んで償えるのではないか、とか考えているんじゃないの?」
湊は顔を上げて、答える。
「すごいですね、大体あっていますよ」
「馬鹿じゃないの?ここの人たちは昔の事を知って見捨てたりするような人じゃない事を一番知っているのは貴方じゃないの?」
アグナの言葉がどこか、温かくも感じた。
「一番かどうかは知りませんが、そうでしたね、此処の人たちは今を見る人ばかりでした。まだ怖いですが少し勇気は出てきましたよ」
湊の言葉にアグナは安堵の表情を見せる。
湊は、少し表情を和らげる。
そのまま、由紀奈に問いを投げる。
「由紀奈、君って人形でしょ」
「ただの罪人ですけど」
「そっか、世界の法令の中に『人形と分かった場合、すぐに処刑すること』って理不尽なものがあるけどさ、あれって傀儡子に無駄な情報を知られることを抑えるたえだっけ」
湊が急に法令の話をし始め、由紀奈も少し混乱する。
「だから?」
すると、湊が一つの案を出した。
「殺さなくていい、なんでここに来たのか、なぜ殺そうとしたのか。拷問するけどいいよね」
アグナもその言葉には反応をした。
「正気?今話させればいいでしょ。なんでそこまでするの」
「大体、こうゆう時に話すことは嘘が多い。しかも武器を持たせた状態で話す気もない」
皆が黙り込んだ。
湊が無意識に圧力を全体にかけているからだ。
「ケイン様、どうか許可を」
ケインも湊の案には乗る気ではない。
それでも湊はケインをずっと見つめていた。
ここから、あつい展開になる!(はず)