楽しい調理場
調理場では、セリアとコンロンがヴァレリにクッキーの焼き方を教わっていた。
「そうです、厚さが均等になるように伸ばしてください」
ヴァレリは実践しながら二人に教えている。
「これくらいでいいかしら」
セリアは自分で伸ばした生地をヴァレリに見せる。
「いくつか種類がありますが、目標より少し厚過ぎかもしれないです」
「……そう」
「頑張ってください」
落ち込むセリアを励ます。
平均的な厚さとされる5㎜で作っている。
一方コンロンはかなり薄く伸ばしていた。
それに気づきヴァレリが急いで止める。
「コンロン様、ダメではないですが薄すぎます」
コンロンがヴァレリが伸ばしている生地を見て、黙ったまま伸ばし直す。
本気で作っているらしい。
セリアとコンロンが何故ここまで一生懸命かと言うと、三日後がクラパムの誕生日だからだ。
セリアが、ヴァレリにプレゼントで何がいいかと聞き、ヴァレリが案の一つにクッキーと言ったことが事の始まりだ。
「本番は三日後なんですから、ゆっくり覚えたらいいと思いますよ」
ヴァレリは二人に声を掛けるが、届いていない。
ヴァレリは、乾いた笑いを浮かべて、ため息をつく。
ヴァレリがしゃがんで作業台の下の戸を開ける。
そこから奥にある、クッキーに使える型抜きを取り出した。
腰を上げるとコンロンが目を輝かせながら型抜きを見ている。
「ヴァレリ、これは何だ」
「型抜きっていって、小麦粉を少しつけて、生地に抑えつける。するとその形のクッキーが出来るものです」
コンロンは早くやりたそうにしていた。
セリアの方を見ると、
「ここに茜が居なくて良かった気がする」
「そうですね」
そんなことを話していると、コンロンがヴァレリを呼んでいる。
「なぁ、生地の厚さこのくらいでいいか?」
と言われ、ヴァレリが確認する。
「いいと思います。型抜きしますか」
「うん!」
コンロンは嬉しそうに返事を返す。
と、そこに茜とエリーがやってきた。
「どーしたんですか?こんなところで」
茜が元気がなさそうにしていた。
「クラパムの誕生日にうまくクッキーを作れるように練習してるのよ、てか茜どうしたの」
「掃除サボってたら時和に見つかって四時間もさせられました。しかも『料理の手伝いならできるだろう、僕の代わりに行って、茜が片づけられなかった分は僕とリアムがやるから』って追い出されて料理できないのに……」
「自業自得でしょ、さあ料理頑張って」
セリアは、心配はするが興味が無かった。
するとコンロンが珍しく茜を心配する。
「茜は今日頑張った。これ焼けたら茜に半分あげる」
茜の表情が一気に変わる。
「いんですか。コンロン様どうしたんですか。ついに私に敬意を払う気になりましたか」
茜は正直に喜べなかったという事もあるが、実際何か疑っていた。
コンロンは、ため息を吐き、
「もういい、茜にだけあげない」
茜は顔を青ざめる
「あぁ……、ごめなさい、ごめんなさい、だからください、お願いします」
相当疲れているようだ。
見かねてヴァレリが指示を出す。
「エリー、スープを作って、なんでもいいから」
エリーは頷き、鍋のあるほうへと歩いて行った。
「茜は私の手伝いね、今日はハンバーガーにするから」
茜は『ハンバーガー』という単語に反応する。
「分かった、なんでも手伝う」
と、ヴァレリの隣へ行く。
「セリア様、型抜き出来たら呼んでください、私のもやっといてください」
「分かったわ、じゃあ頑張ってね」
珍しく調理場が賑やかだった。