騎士の約束
庭では、ルークとアグナが剣の素振りをしていた。
「……九十八、九十九、百、と、じゃあ休憩しましょ」
「はぁ、はぁ、分かりました」
アグナはまだ余裕ありそうだが、ルークはもうバテバテだった。
これが自称か否かの違いだろう。
「変わらないな、これだけやれば体力つくはずなんだが」
「ほっといてください」
アグナとルークは師匠と弟子のような関係でもある。
ルークがアグナを見たときに騎士に憧れた。
そこ時、ケインに頼んだら、
『夢を持つのはいいことだ』
と、いう理由でアグナに師匠として剣を習っている。
しかし、騎士になるには相当遠そうだ。
「では、木剣で稽古してみるか」
アグナが突然、練習になかったことを言い出す。
ルークは、恐怖心よりも、楽しさが上回っていた。
「では、一度だけ」
アグナは、笑みを浮かべルークに木剣を渡した。
「では、立て。そこから始めよう」
アグナは、構えることなく右手に木剣を持ち、下に向けていた。
そして、ルークは立ち上がり、すぐにアグナの首を狙う。
アグナは木剣で弾いた。
と同時に蹴りを入れる。
ルークは地面に倒れるが、すぐに立ち上がり構え直す。
「狙ってるところがまるわかりだ」
聞いているが返事はしなかった。
と言うより、必死過ぎてその余裕がなかった。
どうすれば一本とれるだろうか。
どうすればあの木剣を避けられるだろうか。
どうすれば強くなれるだろうか。
そんな事だけを考えて稽古をしている。
ルークは持っている木剣をアグナに投げる。
アグナはすんなりと避け、木剣が地面に刺さる。
ルークが、アグナに向かって突進しようとし、アグナが構える。
アグナはルークが目の前に来るタイミングで振り下ろす。
だが、ルークは避けてアグナを通り過ぎた。
そして、地面に突き刺さっている木剣を抜き振り向きながらアグナに当てようとする。
アグナも振り向きながら木剣で防ごうとするが、態勢も悪く持っていた木剣が手から離れる。
「勝ち、――でいいですか」
「あぁ、今回は私の負けだ」
二人は手を握り、互いに敬意を表した。
「楽しかったか?」
アグナが少し真剣な表情になる。
「はい」
ルークは息を切らせながら答える。
「そうか、だがな、騎士というのはどんな理由かは人によるが『人を殺す』それは解っているな」
「……はい」
ルークは顔を下げて答える。
「その覚悟はあるか?」
「僕は――」
言葉が詰まる。
「正直なところ解りません。ただ今はこのイソティス城を守りたい……です」
ルークのその言葉にアグナは笑みを浮かべる。
「そうか、ルークなら信じよう。間違った道へと進まないことをな」
アグナは、一息置いて話を続けた。
「そうだ、私から一本取った記念にケインに、馬を買ってくれないか話してみよう」
ルークは突然の話に驚いた。
「いんですか。僕みたいなのが……」
「いいとも、今は自称とはいえ騎士を目指しているんだろ。騎士は馬に乗って戦うもんだ」
「は、はい!ありがとうございます。約束ですよ」
ルークの表情は、嬉しさだけの一点の曇りもない笑顔だった。