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残酷な世界のいたずら。  作者: 紗厘
第一章 ~新しい部下~
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買い出し

 調理場では、ヴァレリがエリーに料理を教えていた。


「魚を使うときは薬味と一緒に煮たり焼いたりすると、生臭さを抑えられるからね」


「そうなんですね!初めて知りました」


 エリーは一生懸命にメモを取る。


「料理の事だけは、僕に聞いたらなんでも答えるよ。今日は掃除でここにはいないけど時和に聞いてもいいからね」


「はい」


 二人は楽しそうに夕食を作り始めた。


「エリーは魚料理、なんでもいいから作ってみて」


「いきなりですか」


 エリーはヴァレリの言葉に驚きを隠せなかった。


「うん、大丈夫。責任は僕が取るからね」


 エリーは戸惑いながら、


「分かりました」


 と返事をする。

 すると、ヴァレリが思い出したかのようにエリーに伝える。


「別にコース料理みたいに、前菜出して、スープ出して、とかしないからね。一気に出して、一気に片づけるから」


「それって……」


 エリーは何かに気づいたように表情が固まる。


「そうそう、口直しとかなくてメインが不味ければ不味いままだから、頑張ってね」


 ヴァレリはプレッシャーを与えて、スープを作りに行った。


「鬼畜だ……」


 声を漏らしながら、包丁を手に取り、魚をさばき始めた。


 茜と浩正が町の方へ買い出しに行っている。

浩正は、両手に紙袋を持って茜の後ろを歩いていた。

茜は、パンの入った紙袋を炊き抱えていた。


「この町一番のパン屋さんだって!楽しみですね!」


 茜は微笑みくるくると回転しながら歩いていた。


「そうですな」


 浩正はににこやかに返す。


「ヴァレリに頼まれていた食材も手に入ってよかった」


「でも、食材を買うためにここまで下りなきゃいけないのは大変だね」


「そうですな、ですが山の奥に屋敷を作ったため仕方がありません」


 イソティス城から町まで、歩いて三十分掛かる。

 そのため、買い出しに行った使用人は、カフェなどで休んでもいいと、ケインからの許しも出ている。


「あそこで休もうよ!」


 茜が指を指す先には喫茶店がある。


「そうですな十分程、休憩いたしましょう」


 喫茶店へと入っていった。


 珈琲を飲んでいると、髪の長い女の子が二人に話しかける。


「おぬしら、どこの者じゃ」


 外見に似合わず、昔の人みたいなしゃべり方をする不思議な女の子だ。


「私たちですか?イソティス城の使用人ですが、どうかされましたかな?」


「イソティス城か、我は孤児院の施設長をしておって、子が増えてしまってな。使用人として雇ってほしい奴がおる、雇ってはくれんかな」


「君って何歳なの?」


 茜が疑いの気持ちを隠すために、話を変えるように、子供の相手をするように聴く。


「無粋な質問じゃな。見た目以上とだけ言っておこうかの」


 笑いながら答える。


「私たちはたかが使用人、私たちが決める事ではありません。そろそろ時間が来ますので帰らせていただきますぞ」


 浩正は、椅子から立ち上がり紙袋を手に取り喫茶店を出た。

 茜が会計を終わらせ、浩正の後をついていき、パンの紙袋を受け取る。


「あの少女からは不吉な気配がいたしました。変に面倒事にはしたくありませんのでこの事は黙っておきますぞ」


「分かった」


 不吉な気配は浩正だけでなく、茜も感じていたようだ。

 髪の長い少女は喫茶店を出て、そんな二人を見て振り返り反対側に歩く。


「イソティスの者だったか。もう送っておるからかまわぬか」


 笑みを浮かべながら歩き続けた。


 イソティス城の庭で寝ていた湊が起き、屋敷の中へ入ろうとすると、浩正と茜と合った。


「買い出しか?お帰り」


 その声に茜が笑顔で反応する。


「ただいま!湊は相変わらず寝ていたのか?」


「まぁな」


「がっかりだよ、そうだ!耳貸して」


 素直に茜の方に耳を傾ける。


「ミランと付き合ってるでしょ?」


 その瞬間湊が茜を睨む。

 茜は湊の耳を引っ張り、話を続ける。


「私以外は気づいていないみたい、私だって色恋沙汰に手を出すつもりはないから」


 茜は、親指を立て笑顔を見せる。


「いい感じに目が覚めたよ」


 嫌味を言うように言った。

 茜はニコニコ笑みを浮かべる


「では、先に入らせていただきますぞ」


 浩正がそう言って、屋敷の中へ入っていった。


「じゃあ、私も」


 茜も屋敷の中へと入っていった。

 湊は大きくため息をついてから二人の後を付いていった。


 あっという間に六時になり、ダイニングルームにブレア一家と新人の使用人が集まる。

 ケインたちは、椅子に座って料理を待っていた。

 ケインとキャラハンは、隣同士で仲良く座っている。

 キャラハンの右斜め前には、セリアが座っている。

ケインの左斜め前にクラパムが座り、その隣にはコンロンが座っている。

由紀奈達は、ケインたちの後ろで立っていた。

 ミランなどの長くいる使用人たちは、料理を運ぶために、まだダイニングルームにはいなかった。


「座っていたらいいのよ。ここは、使用人も私たちの家族みたいなものですし、ミランたちもいつも一緒に食べていますから」


 キャラハンが振り向き、由紀奈達にそう伝える。


「ですが――」


「諦めなさい。母上は何を言おうが聞かないわよ、そこに関してはミランも諦めてるから」


 由紀奈の言葉を遮り、セリアは前を向いたまま言った。


「……でしたら、承知いたしました。どちらに座ればよいでしょうか」


 もやもやとした気持ちを抱いたまま、由紀奈は座ることにした。

 キャラハンは、満足気に笑みを浮かべる。


「そうね、由紀奈とエリーはケインの列の一番奥から二脚を、リアムは私の列の一番奥に座ってて」


 そう言われ、由紀奈達は言われた場所へと座る。

三人とも落ち着かないのか、視点が定まらない。


扉からノック音が聞こえる。


「失礼いたします。料理の方をお持ちしました」


 時和の声で扉は開かれる。

 ミランと湊がサービスワゴンを押して、あとの五人は料理を席に置いていく。


「今日は豪華だな。新人のパーティーか?」


「いえ、本日エリーに料理をしてみたいとの事だったので、一通り教えてやらせてみたら量を間違えてしまって」


 ヴァレリが説明をすると、エリーが固まっていた。

 エリーは分量を間違えて叱られると思っている。


「あらまぁ、エリーは積極的なのね。最初は失敗するものよ、成長が楽しみね」


「そうだな、量はともかく見た目はいい。ひとまずミラン達も座りなさい」


 ケインもキャラハンも笑顔でそう言った。

 エリーは、不思議そうに二人を見て、


「叱らないのですか?」


 と、問いを投げる。


「なぜ叱らなければならない。自分がやりたくてやったことに怒りはしない。アドバイスをしたりするだけだ」


 ケインは、笑顔のままエリーに伝えた。


「はい、ありがとうございます!次頑張ります」


 エリーに気合いが入る。

 ミラン達も席に座り、ケインが挨拶をする。


「いただきます」


「「いただきます」」


 ケインに続き皆も挨拶をする。

 机に置かれたムニエルを口へと運ぶ。


「うん、おいしい。エリーは料理が向いているかもしれないな」


 ケインはエリーの方を見ながら料理を褒める。


「本当ですか!ありがとうございます」


 身を乗り出し、笑顔で喜んだ。

 だが、すぐに冷静になったふりをし、


「し、失礼しました」


 と、下を向き椅子に座る。


「誰も気にしていないから大丈夫よ」


 キャラハンがいつもの笑顔で、気遣う。

 

 大盛りにあった料理を全て綺麗に食べた。

 全員で十六人となればあの量は少し多いぐらいらしい。

 ヴァレリと時和、エリーは食器を重ねサービスワゴンに乗せて洗いに行った。

 湊やミランのほかの使用人は使用人が集まる部屋にいた。


「あの、いくら使用人を家族のように見てくれると言ってもいろいろとやりすぎな気がします。食事にしろこの部屋にしろ、使用人一人ひとりに部屋を使わせていただける事も」


 由紀奈が不思議そうに皆に聞いた。

 その問いに湊が答える。


「そこは同感だな。他の屋敷に比べ人数が少ないというのもあると思うけど、ケイン様やキャラハン様の人柄が良すぎる事が一番の理由だろう」


 ほかの屋敷で、大きな所だと三百人、小さくとも三十人はいる。

 ここ、ブレア家は小さいわけでも無いのに、十人だ。

 自称使用人を淹れれば十一人だが……。


「さて、お風呂に入るとしよう。残念ながら私たちもあの浴室に入る、いい水を使っている。疲れは取れないがな」


 ミランが二人に笑いながら話した。

 由紀奈は苦笑いを浮かべる。


 脱衣所で湊がクラパムとあった。


「あ、すいません」


 そういって浴室を出ようとした。


「ちょっとまって、よかったら一緒に入ろうか」


 クラパムは湊を止めて、二人、来ている服を脱ぐ。

 シャワーを浴び、浴槽につかる。


「一人だけ?」


 クラパムはルークや時和、浩正、リアムがいことを不思議に思った。


「時和はただいま食器を洗い、そのお手伝いで浩正が、ルークは庭で剣を振り、リアムは自分の部屋へと」


 ここに居ない男性の説明をした。


「そっか、湊と二人だけか、昔を思い出す」


 八年前、湊がケインに拾われた日。

 湊は十歳で、クラパムは十五歳だ。

 あの時は二人で話したい、とクラパムが湊に言って、浴室でよく話していた。

 と言ってもクラパムが湊から殺意があるかどうかを確認していたに過ぎない。

 丁度人形(ドール)での事件が多発していた気だからだ。


「あの時は、ごめんね。疑っていて」


「とんでもないです、警戒されて当然ですよ」


 二人とも愛想笑いを浮かべながら、気まずい空気の中話す。


「本当に立派になったよね」


「おかげさまで」


 と、気まずい空気が変わり少し軽くなった。


「それで、湊にとっては新人たちどんな感じかな」


「そうですね、まだ何とも言えません。が、ミランと話し少なくともリアムは白だと」


「そうか、でも何か嫌な感じがするんだ」


「同感です」


 やはり、人形(ドール)の話になってしまう。

 しかし、仕方が無いことだ。

 生死がかかっている話題なのだから。


「ごめんね、疲れをとるところで硬い話をしてしまって」


「気にしてません、俺はこれで」


 と、浴槽から出る。


「今みたいに、いつも僕と話すときは崩してくれていいのに」


 口調より、雰囲気の事だ。

 いつもクラパムの前では湊はいつも緊張気味だ。


「分かりました、次からやってみます」


「あぁ、じゃあね」


「失礼します」


 湊は、先に浴室を出て、自室へ向かった。

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