掃除も楽しく
時和は今日、茜とダイニングルームの掃除を担当していた。
よりにもよって茜と、運が悪い。
だがまだ茜は来ていない。
時和一人で、床を磨いていた。
「ごめんね、少しおくれ……何その格好」
と、口を手で押え笑いを堪えていた。
予想通りの展開だった。
「うるさいな、僕だって着たくなかったんだよ」
茜は時和の姿をじーっと見る。
「似合ってると思う!」
その言葉は嘘ではないだろう。
「嬉しくない」
嬉しさなど一つもなかった。
「とにかく、茜は棚とかの埃を綺麗にして」
茜は、城の中にある物置から掃除道具を持ってくる。
やる気なのは嬉しいが、最初から掃除するってわかっているのに、なんで持ってきてなかったんだ。
と、内心怒っていた。
茜が戻ってきて掃除を始める。
最初は静かにしていたが時間が経つにつれ話を始めだす。
「今日ぐらいは、楽しい日になるかな」
茜が不安をあらわにした。
「どうだろうね、屋敷では人が死んだり、皆が眠ったり、町では指名手配犯に殺されたり、怪我を負わされたり。嫌なことが続いてるからね」
「でも、今日はクラパム様の誕生日であり、祝う日だからさ」
今、掃除をしているのもクラパムの誕生日会に向けての物だ。
「うん、そうだね。由紀奈とアグナは二人で、浩正は知らない誰かに、その知らない誰かが乗り込んでこない限りは大丈夫だよ」
と、茜に笑って見せた。
茜の不安を少しでも抑えるためだ。
だがその笑顔も不安で満ちていた。
誰が見ても、作り笑顔だと分かるくらいに、不安と言う感情で作られていた。
茜はその笑顔を見て時和に励まされている。
時和に無理をさせていると思った。
「そういえばさ、コンロンが作ったクッキー美味しかったんだ」
初めてコンロンが作ったクッキーを茜はもらって食べていた。
少しでも楽しい話に変えるために、思い付きで茜はその話を始めた。
「そうなんだ、でもね昨日作ったやつはオーブンでまる焦げにしてたんだよ」
「それもそれですごいわね」
そんな話をしていると、不安は少しずつ薄れていき、自然と笑顔も出始めた。
最後は茜らしい言葉が出てきた。
「これからずっとメイド姿でいいじゃん」
時和は、床を拭いていた雑巾を茜の顔に投げつける。
「うわ、汚いじゃん!」
「知らないよ、茜が変なことを言うからダメなんでしょ」
茜が雑巾を時和に投げつけようとしたら、時和にすごい圧力と共に睨まれる。
その圧に負けて歩いて手渡しで茜に返した。
それから少し経ち、また茜が口を開く。
「あのさ……」
「少しは黙ってできないの?」
時和は即座に反応する。
「ごめん、でも気になってさ」
両手を合わせて時和に謝る。
「それで、どうしたの」
「誕生日会の飾りつけっていつやるの」
時和は、固まっていた。
「ん、おーい」
茜は時和の前で手を振ってみる。
時和は急に茜の振っている手を掴む。
「きゃ」
と、茜は可愛らしい声を出す。
「急につかまないでよ、びっくりするじゃん」
時和は茜の腕を掴んだまま話を続けた。
「――忘れてた」
「え?」
「忘れてた」
メイド服を着ていていつもと違うせいか、すっかり装飾の事を忘れていた。
このペースだと、夕食ぎりぎり終わるくらいだ。
流石に余裕は欲しい。
「ごめん、掃除のペースもっと上げて。でも丁寧にね」
「リアムにも手伝ってもらったら?」
「ごめん、呼んでくるから一人で頑張って!」
そう言い残し、すぐに走ってリアムを呼びに行った。
と思ったら、スカート部分に引っかかてこけた。
「あー」
茜は呆れながらも面白おかしく見ていた。
「たまにはちゃんと掃除をしよっかな」
と、茜は本気モードに入った。




