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残酷な世界のいたずら。  作者: 紗厘
第一章 ~新しい部下~
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自己紹介

 俺がイソティス城に使用人として勤めて八年が経つ。

 そして今日、新しい使用人が三人入ってきた。

 自己紹介やこの城についての説明をするため、使用人から当主全員がホールへ招集がかかった。

 イソティス城には、使用人と一家が住んでいる。

 俺を含めて使用人は八人、当主である父。他に母、姉と兄、妹が暮らしている。


「今日は集まってくれてありがとう。新しい使用人が三人加わった」


 渋い声で話を進めるのは、ブレア・ケイン。

 イソティス城の当主であり、一家の父だ。


「みなさま初めまして。この度新しくお屋敷の使用人としてお給仕させて頂くことになりました。由紀奈(ゆきな)と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう挨拶をするのは、黒髪のショートが似合っている少女だ。

 メイド服も良く似合っている。

 挨拶からしてかなり慣れているようにも思える。


「初めまして、私はエリーと言います。何かと初めてなので沢山迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いいたします」


 続いて、金髪の背が低めの少女が挨拶をする。

 落ち着きがなく、心配そうに周りを見ている。

 メイド経験なしと見た。

 

 もう一人少年がいるが、ずっと下を向いている。

 皆がその少年の方を見つめる。

 するとケインが代わりに説明をした。


「この子はね、少し前に道で拾ったんだ。傀儡子(くぐつし)に拾われる前に私が連れて帰ったんだ

 傀儡子というのは人の名前ではない。

 この世界の闇組織みたいなものだ。

 借金に困っている者や、宿無しなどを捕まえて非道徳的なことをさせる。

成功すれば報酬としてお金を渡すという物だ。

 

 借金に困っていれば、傀儡子が立て替える。

 そして、傀儡子に借金が出来て逃げる事が出来ない。

 

 宿無しは、傀儡子の所にしか居場所がないため、逃げても同じ。


 傀儡子に捕まった人を、人形(ドール)と呼んでいる。

 傀儡子に操られていて人形のようなところからそう呼ばれているらしい。


「だから、別に使用人としての知識があるわけではない。そこのところ、優しく見守ってくれ」


 集まっていた皆が口を揃えて、


「解りました」


 と、言った。


「リアムです。お願いします」


 少年が初めて口を開いた。

 しかし、未だ下を向いていた。


「うん、ありがとう。ではミランから宜しく頼む」


 ケインのその言葉に反応するのは、イソティス城で一番長くお給仕している使用人だ。

 背も高めで、胸もあり、かわいい女性だ。

 一歩前に出て、由紀奈達の方を見る。


「はい、解りました。初めまして、ミランと申します。メイド長をやっています。分からないことがあったら何でも聞いてください」


 一歩下がる。

 順番でいうと俺の番だ。

 なぜか緊張しているが、その緊張を押し殺して一歩前に出る。


「初めまして、俺は(みなと)だ。立場的にはミランの助手と言ったら解りやすいと思う。ここはあまり硬くならなくていいと思う」


 そんなことを言ったら、後ろからミランに殴られる。


「申し訳ございません」


 ミランはそのまま話そうとしていたが一家の母が笑いながらに言った。


「いいのよミラン、実際そうだから。気楽に過ごしたほうが楽しいでしょう。そうだ、私もついでに自己紹介しようかしら、ブレア・キャラハンと言います。よろしくね」


 新人はそれぞれに返事をした。


「ありがとうございます、キャラハン様。ほら、港も」

「あ、ありがとうございます」


 ミランが湊の母のようになっている。

 実際、使用人の中ではメイド長というだけあり母のような位置にいる。

 キャラハンの言った通り、なかなか自由に過ごしている。

 自由と言っても、やることは沢山あり休憩する時間は少ない。

 ここまで厳しくない屋敷は、イソティス城ぐらいのものだろう。

 湊が謝り、一歩下がると湊の隣にいた少女が大きく一歩前に出て自己紹介を始める。


「はーい、私は(あかね)って言います!基本は洗濯、掃除をしてて料理は出来ません」


 元気いっぱいに自己紹介をする。


「茜!正式な場ではちゃんとしなさいって言ってるでしょ」


 早速ミランがお怒りのようだ。


「別にいいじゃん。キャラハン様も気楽がいいって言ってたし、ねーコンロン様」


 コンロンとは、ブレア家の妹にあたる人物だ。

 コンロンは茜の言葉に頬を膨らませる。


「茜はいつまで私を子ども扱いするの!もう八才だよ!」


「八才はまだ子どもですよ、コンロン様」


 茜は笑顔で、コンロンは悔しそうな顔でいがみ合っている。

 二人は放っておいて、次に男性が自己紹介を進める。


「初めまして、茜はいつもあのようなお方なのでお気になさらず。私は、浩正(ひろまさ)と申します。使用人の中では最年長でございます」


 渋くていい声だ。

 なんとも癒される、本を音読でもされたら寝てしまいそうだ。

 エリーは気になったことがあり、何か言いたげだった。

 湊がそれに気づき、声を掛ける。


「エリーだっけ?どうかした?」


「あ、はい。上下関係は年ではないのかなっと」


 その質問に湊が答える。


「そういうことか、どれだけ長くお給仕しているか、だ。それだけではないが、大体それを基準にしている。俺は八年、だが浩正は五年。ちなみにミランは十年だ」


「そうなんですね、わざわざありがとうございます」


 エリーは深々と頭を下げる。


「それじゃ、次は僕かな。初めまして、ルークだ。基本は護衛任務を任せられる。使用人というよりは、騎士みたいなものだ」


 自称騎士というだけあり、腰には剣が差さっている。

 書式上は使用人となっているため、自称騎士だ。


「僕は、ヴァレリです。主に料理担当です。料理以外は出来ません!」


 笑顔で自信満々に言わなくていい所を笑顔で自信満々に言っている。

 簡単に言えば、馬鹿だ。

 しかし、料理の腕はかなりものだ。

 流石、女子と言うとこか。


「僕も同じく料理担当の、時和(ときわ)です。よろしくお願いします」


 時和は、料理だけでなく、家事全般が出来るが人手不足で今は料理に専念してもらっている。

 見た目もかわいい少年で、ブレア家の姉、セリアによくいじられている。


「私か?私もルークと同じで護衛任務がおもだ。名はアグナだ。よろしく頼む」


 アグナは、ルークとは逆で自称使用人、書式上は騎士だ。

 長い赤髪でよく目立っている。


 使用人の自己紹介は一通り終わったが、未だ茜とコンロンの争いは続いていた。

 一体どちらが子どもなのやら、と頭を抱える。


「姉様、姉様!茜がいじめてきます」


「知らないわよ、クラパム、止めて」


 クラパムとはブレア家の兄である。


「わかりました。茜、コンロン、言う事を聞いたほうだけおやつをあげます」


「ほんと!兄様!」


「本当ですか!クラパム様!」

 

本当にどっちが子どもなんだ。

 

湊とミランは同時に溜息をついた。

 すると、二人は笑顔になり静かになった。

 そんな二人見てほほ笑むケインとキャラハン。


「ではセリア、クラパム、コンロン。自己紹介をしなさい」


 キャラハンの言葉に、セリアは椅子から立つ。


「新しい使用人さん、よろしく。姉のブレア・セリアよ」


 簡単に終わらせ、椅子に座る。

 次にクラパムが、椅子から立つ。


「初めまして、兄であるクラパムです。これからよろしくお願いします」


 最後に微笑み、椅子に座る。

 ここにいて今唯一、癖がないのがクラパムだ。

 コンロンが自分の番だと気づき、椅子から立ち自己紹介を始める。


「私がブレア・コンロンよ。分からないことがあれば何でも聞くといいわ」


 胸を張り、誇らしそうに言っていると、茜が茶々を入れる。


「最年少なのにですか?コンロン様に聞いても何も得しないと思うのですが」


「うるさいわね!茜は黙ってたらいいのよ!」


 また、コンロンと茜の争いが始まる。


「おやつ、要らないんですか?」


 クラパムが、顔だけ笑う。

 なんとも言えない圧力を感じ、コンロンと茜が口を揃えて、ごめんなさいと謝る。


 この屋敷の中で、クラパムが一番腹黒いことは、新人の使用人以外はみんな知っている。

その冷たい空気間の中でケインが話を続ける。


「まぁ、一癖も二癖もある人しかいないが、頑張ってくれ」


 リアムは未だ、打ち解けていないようだが、由紀奈とエリーは戸惑いながら返事をする。


「ミラン、三人を案内してやってくれ」


「解りました、ではこちらへ」


 ケインの指示にミランはすぐに取り掛かり、三人を案内しに行った。


「後の人たちは解散だ」


 その言葉に、湊とケイン、キャラハン以外は、部屋を出て行った。


「湊さんどうかしましたか?」


 動かない湊に、キャラハンが聴く。


「キャラハン様、『さん』というのは……」


「いいのよ、使用人だからと言って呼び捨てという決まりもありません。むしろ硬いのは嫌いですよ」


 キャラハンは、いつもにこやかとしている。

 時に湊の悩みを聞いてくれた人でもある。


「ありがとうございます。では本題へ、リアムの事で――」


人形(ドール)の可能性はどうなのか。だろう」


 ケインは予想をしていたようだ。


「はい、先日もとある屋敷の人々が人形(ドール)に殺されたと、その人形(ドール)も屋敷の方が道で拾った者と」


「知っている。新聞で読んでいたよ。しかし、湊くんも同じだろう、心配することはない」


 八年前、湊は森でケインに拾われた。

 それからずっと使用人としてお給仕している。


「申し訳ありません」


 ついつい謝ってしまう。


「いいのよ、私たちを心配しての事よね。ありがとう、では少し様子を見てあげて」


「解りました、では失礼します」


 扉の前で頭を下げ、庭へと歩いて行った。

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