決断と疑いと不安
十分程経っただろうか。
由紀奈はその間、何度か逃げようとしていた。
そのたびに、アグナとルークが止めている。
ケインはまだ、信じられないのか悩んでいる。
「ケイン様、この状況でまだ迷いますか。ルークはもう左腕に傷を負っています。決断をしてくださればすぐに抑えることも可能です。拷問の結果『白』と分かればいんです」
湊は少し焦っていた。
「……分かった。ただし食事などは必ず――」
ケインはやっと決断をした。
湊はケインの一言目が聞こえた時点で動いていた。
無言で動き、由紀奈の腹に一発殴り、屈んだすきに首の後ろを勢いよく衝撃を与える。
由紀奈は倒れこむ。
湊の動きはかなり洗練されていて、アグナしかしっかりと目で追うことが出来なかった。
アグナはこの時に湊も警戒していた。
ただの処刑人がここまで動けるわけがない。
まだ何かを隠していると確信をした。
湊は由紀奈を担ぐ。
「ケイン様、先ほど話していた池の近くに使っていない倉庫がありますよね、使わせていただきます」
ケインは、冷静ではなかった。
信じていた人が殺そうとしていた。
湊の雰囲気の変わりように。
すべての状況のせいで冷静ではなかった。
「あ……あぁ」
その返事を聞き、湊は動こうとする。
冷静でないのはケインだけではない。
冷静な人は、湊とアグナの二人だけだ。
「ケイン様、倉庫のカギはどこにありますか」
「あぁ、カギか。すぐに持ってこよう。少しここで待っていてくれ」
「分かりました」
ケインは今にも倒れそうに歩いていく。
「ルーク。ケインに肩を貸してあげなさい」
アグナがケインの姿を見てルークに指示をした。
「は、はい」
ルークは急いでケインの元へ行き、力を貸す。
皆、こんなことがあれば食欲も失せるという物。
「ごめん、もう私は部屋に戻って寝るわね」
セリアがそう言ってダイニングルームを出る。
無言でコンロンも付いていった。
「僕もそうするよ」
クラパムも自室へ戻る。
皆が一言ずつ言ってダイニングルームを出る。
そこに残ったのは、湊、担がれている由紀奈、アグナとキャラハン。
ケインが戻ってきて、湊にカギを渡す。
「ありがとうございます」
一言だけ言って自室へと向かっていった。
「アグナも戻りなさい」
ケインのその言葉に、アグナも出ていく。
「どう思う」
キャラハンがケインに聞く。
「由紀奈が人形じゃないことを祈るだけだよ」
「そっちじゃなくて、湊の方よ」
ケインはその質問にはうつむく。
すると少し口を開く。
「湊はな、ただの処刑人ではない。全部は言わなかったが、人形に対してだけの処刑人だった。ただ上に言われたように殺していた」
キャラハンはケインの言葉に驚かされる。
「じゃあなんで言わなかったの。皆が不安になるだけじゃない」
「湊に処刑人の事は言ってもいいが、人形専攻の処刑人と言う事だけは言わないでほしい、と言われていてな。なぜかは知らないが」
キャラハンは黙り込む。
「今の動きも人形が逃げた時のためのものだろう」
ケインはキャラハンに教えるように言っているが、ケイン自身に言い聞かせるためにも言っていた。
キャラハンは、ケインの言葉を自分に言い聞かせる。
「そうよね、湊に限ってね」
キャラハンは一息置いて、
「私たちも部屋に戻りましょ」
「そうだな」
ダイニングルームは荒れたまま、無人の部屋になった。
二章がこれで終わりですかね。
次から三章にとつにゅ~