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安奈  作者: はにゃにゃき
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過去と業

 十ヶ月。

 人が腐るのに、十ヶ月という月日は十分すぎた。


「……寒い」

 今日も朝は寒かった。

 十二月中旬。もうすっかりと季節は冬となり、俺は少し憂鬱を感じている。

 朝起きるのもだるいし、外を歩くのもだるい。

 灯油を買いに行くのもだるいし、学校へ向かうのもだるい。

 何もかもに、やる気が起きなかった。

 もう一度布団にもぐりこんで、昼まで寝てやろうか。という気になってしまう。

「……さむ」

 俺は隣でまだ寝ている安奈の寝顔を見つめていた。

 スヤスヤと、安堵に満ちた顔で幸せそうに眠っている。

「くぅ……くぅ」

 くそ、無職は気楽でいいな……なんて少し思い、起こさない程度の軽いデコピンを食らわせた。

 そして俺は安奈を起こさないよう、ゆっくりと静かに布団から這い出て、洗面台へと向かい、冷たい水で顔を洗い頭を起こす。

 この時期の水道水は冷蔵庫の中にしまっておいたミネラルウォーター並によく冷えている。 眠気なんてこれで一気に覚めてしまう。

「さむ」

 鏡の中の自分は、少し顔色が良い。以前のように青ざめた不健康男のそれでは無くなっていた。

 少しは、生き返ってきた。という事だろうか。


 このアパートはワンルームトイレ風呂付。ワンルームなのでリビングは寝室もキッチンも兼用。

 着替えをするためにはまたリビングに行き、眠っている安奈に気を使いながら静かに着替えなければならない。

 以前までなら別段気にかけず、安奈が眠っていようが関係なく、遅刻しそうな時は特にドタバタとあわただしく準備をしていた。

 そのたびに安奈は「うぅん……」と言いながら起き上がり「あ……ご、ごめん」と意味不明な言葉を発する。

 そして俺は掃除と洗濯」とだけ言って部屋を後にしていた。

 それに比べ安奈は、以前、毎週火曜日と金曜日、安奈は早出のバイトに行っていた。

 その時安奈は、俺を起こさないよう、気を使いながら着替えをし、ゆっくりと玄関の開け閉めをしていたはずである。俺は安奈が支度をする音で目覚めた事は一度も無い。

「……チッ」

 やっぱり前の俺は、腐っていたらしい。


 俺は物音で安奈を起こさないために、リビングを出て廊下で着替えをする。暖房の無い廊下の床は靴下を履いていない足にはかなり堪える。

 冷たいというより、むしろ痛い。俺はまず靴下から履く事にした。


 着替えが終わり、ふと時計を覗き込む。

 まだ七時五十分……電車が出るまであと一時間ある。

 いつもならテレビでもつけてニュースを見る所だが、俺はもう一度リビングへ戻り、安奈を起こさないよう、ゆっくりと静かに、眠っている安奈の隣に座った。

 相変わらず、ぐっすりと幸せそうに眠っている。

 ……何故、幸せそうに眠れるのだろう。俺は、こんな奴なのに。

 俺と一緒に居る事が、安奈にとって、何故浄化に繋がるのか。

 俺なんかよりマシな人間は山ほど居るだろう。それなのに安奈は、俺と一緒に居ると、俺に抱かれると、浄化されて行く、と言う。

「……何故」

 よっぽど、飢えていたんだろう……そして、汚れていたのだろう。

 こんな小さな体で、俺なんかの想像を遥かに超えた業を、過去を、背負っている。

 俺は特に深く考えず、安奈を抱いてきた。

 正直、俺は安奈の事を『いつでも抱けてこの上なく便利なストレス発散のためのはけ口』としか思っていなかった……最近良く聞くナントカフレンドというものとしか思っていなかった。

「……最っ低の、クズ野郎が……」

 自分で自分に毒づいた。

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