僕の形をしている、屍
姉が、死んだ。
朝起きると、姉は自室で首を吊って自殺をしていた。
「……」
姉は、もう何も語らない。
ただ、死んでいる。
ただ、死んでいた。
「……」
聞いていた通り、首吊り自殺というものはかなり汚らしい。
姉の嘔吐に小便に大便……それらが床一面を覆いつくしている。
「……」
姉は、もう何も語らない。
ただ、死んでいる。
ただ、死んでいた。
「……おはよう」
僕は姉に話しかけてみた。死んだフリをして僕を驚かせようとしているのかも知れないと思った。だから、話しかけてみた。
だけど、返事は無い。やはり、ただ死んでいる。
「……部屋かなり汚いっけ、掃除くらいしたら?」
僕は姉に話しかけてみた。死んだフリをして僕を驚かせようとしているのかも知れないと思った。だから、話しかけてみた。
だけど、返事は無い。やはり、ただ死んでいる。
「……一昨日からなんかおかしいけど、何かあったの?」
僕は姉に話しかけてみた。一昨日から姉の様子がおかしいという事を今思い出した。だから、話くらい聴いてやろうと思った。
だけど、返事は無い。やはり、ただ死んでいる。
「……なんだよ黙ってたってわかんないよ」
……僕は姉に話しかけてみた。死んだフリをして僕を驚かせようとしているのかも知れないと思った。だから、話しかけてみた。
……だけど、返事は無い……やはり……死んでる……
「なんでなんだなんでなんだよっ!! なんで死ぬんだよぉぉっっ!!」
僕は姉に問いかけた。だけど、返事は無い。だって、死んでいるんだから。
「おい! なんで死ぬんだなんだっていうんだどうしたっていうんだ!! 答えろ! 答えろよ姉貴ぃっ!!」
「やめて啓二!!」
姉に殴りかかろうとした僕を母は必死に引き止める。
しかし僕は渾身の力を込め母を突き飛ばし、白目をむいている姉の目を睨み、殴りかかった。
「こんの野郎勝手に死にやがって!! 迷惑なんだよテメェは!!」
「啓二!! やめなさい!! 何やってるのよ貴方は!!」
「僕がどれだけ辛いか解ってんのか!? 辛いのはお前だけじゃねぇんだよ!! 死に逃げるなよ!! 死には立ち向かえよ!! 抗えよ!! 死にたくなくて今必死に頑張ってる人だっていんだよ!! 自分の罪を清算するために死ねない人だっていんだよ!! それなのにお前はっ!! 何やってんだよぉぉっっ!!!!」
ああああああああ。
会いたい会いたいよ彩子さん会いたいよ会いたい会いたい。
寂しい辛い悲しい苦しい悔しいムカつく他にも他にも他にも他にも。全ての負の感情が僕を支配する。してしまう。染まる。僕になっていく。
「あああああああああ」
とめてとめてとめてください彩子さん。とめてよはやく僕をとめて。
「啓二!! 啓二!!」
「あああああああああ」
僕が僕じゃなくなる僕はどうにかなってしまうもしかしたらもうどうにかなってるのかも知れない。
「啓二!! 啓二!!」
「あああああああああ」
彩子さん彩子さん彩子さん。
あああああああああああたまのなかがああああああああああああああああああああしろくああああああああああああそめられるあああああああああああああああああああああぼくはああああああああああもう僕じゃいられない。
……だってさ、本当に死ぬだなんて、思わないじゃないか……
……だってさ、僕は僕の事で頭がいっぱいだったんだよ……だから仕方ないじゃないか……
……だってさ、彩子さんが死にそうになってるんだよ……僕が一番憧れているあの人が……明日をも知れぬ身なんだ……
……だってさ……だってさ……
……だったら、矛盾してるじゃないか、僕は。
僕は誰かに頼りにされるような人間になりたいとか、相談されるような人間になりたいとか、思っていた。
思っていたじゃないか。思っていただろ? 否定するな自分。思っていたんだ、僕は。
それなのになんだ、この体たらくは。頼りにされたら拒絶し、相談されそうになったら断って。
結局は、死んじゃってる。頼ってきた人間は、死んじゃってる。
「はは……」
僕は笑った。
「……ははは」
もう一度笑った。
「……はははは」
彩子さん……ごめんね……
貴方が頼りにしていた啓二は、もう、居ない……
あるのは、魂の抜けてしまった、僕の形をしている、屍。




