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安奈  作者: はにゃにゃき
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これで、四度目

「ゆぶざねい」

 やめなよ、安奈……もう、やめなよ。

 何をそんなに怒っているの……? 彩ねぇは別に悪気があって嘘をついた訳じゃないと思うよ……?

 きっと話しにくい事があったんだよ。私には話さないほうが良いって思ってたんだよ。彩ねぇ、私には優しかったじゃない。そうだよ、きっと、そうなんだよ。

 認められたいのは解る……安奈は人一倍その感情が強かったもんね……だけど駄目だよ……ころしちゃ駄目……ころしちゃったら、認めさせる事も出来なくなるんだよ……

「ゆぶざにえ」

 ほら……もう満足に呂律も回らない。手当てしないと舌取れちゃうよ……?すっごく痛いもん……これ以上しゃべったら取れちゃうって……

「ゆぶざにぇ」

 しゃべらないで……今しゃべるとしゃべれなくなる……

「ゆぶざにぇ」

 しゃべらないで……早く手当てしてよレイナ。

「ゆぶざにぇ」

 礼奈……もう本当にやめてもうやめてよ……いつまで……いつまで私を恨めば気が済むの?

「ゆぶざにぇ」

 礼奈……解った、もう他の人を見ないから……私が一生愛してあげるから……お願いだから彩ねぇを殺さないで……

「ゆぶざにぇ」

 けいちゃんも……殺さないで……お願い……私が私で居られなくなる……

「……ゆぶざ……」

 そう、私が、私で、居られなくなるんだ。

「ゆる……」

 私が、私じゃ……?

 私は。

 私?

 私は、礼……奈……?

「ゆる……して……」

 私は、私に戻った。


「あぁぁあああああっっっ!! ざいねぇ!! ざいねぇ!!」

 刺したのは、私……? 私が彩ねぇを刺した……?

 私……私が……?

「ごべん! ごべんぬぇざいねぇ!! ざいねぇ!! ざいねぇ!!」

 私は必死に彩ねぇの横腹の傷を押さえる。ドンドンと溢れてくる血がこれ以上出てこないように、必死に押さえる。

 それでも指の間から血がはみ出してくる。水道の蛇口でもこれだけ押さえれば止まると言うのに……血は止まってくれない。止まらない。

「ごべんね! ごべんね! ごべんね!」

 でも……この行動は初めてでは無い。良く覚えている。だって、印象深いから。

 ……四回目だ。この行動は、これで四回目。

「あ……あ……さ……彩子……さ……」

 けいちゃんは、呆然としている。ただただ、呆然と、彩ねぇの姿を、眺めている。

 あぁ……あぁ……けいちゃん……しっかりして……ごめん今までごめん頼りにならないだなんて思ってしまってごめん。あとでいっぱい愛してあげるから。だから彩ねぇを助けて。

 彩ねぇが死んだら恨むよ一生頼りにならないって思うよけいちゃんのせいだって思うよ私は思い続ける事で信じる事が出来るんだから自分に言い聞かせられるんだから。

 ずっとそうやって生きてきたんだからあははすごいでしょずっと私は私と言い聞かせて生きてきたんだからこの四年間ずっと私は私だって礼奈は安奈だって思い続けてきたんだから信じて疑わなくなれるんだよえへへすごいでしょ?

 それが嫌なら「だずけてげいじゃん!」

 ボロボロと、涙がこぼれる……私の目から、涙がこぼれる……


「だ……じょ……よ」

 彩ねぇは、呟いた。

「だ……いじょ……だから」

 彩ねぇは笑いながら呟いている。

「大丈夫な訳……無いじゃないですか」

 けいちゃんも呟いた。大粒の涙をボロボロと流し彩ねぇの手をしっかりと握りながら、泣いている。

 彩ねぇの傷は内臓まで達している……一刻を争う事態だそうだ……あれだけの出血をして今現在意識があるという事が奇跡と言えるほどの、重症。

「け……ちゃ……」

 彩ねぇはまた呟く。救急車のサイレンの音で掻き消えてしまいそうなほどに、小さく呟く。

「け……ちゃ……わか……とおも……けど……」

「はい……? なんですか?」

 けいちゃんは彩ねぇの口元に耳を近づける。そして彩ねぇはけいちゃんにだけ聴こえるようにより小さな声で何かを呟いた。私には聞こえない……きっと聴こえないように、呟いている。

 聞きおえたけいちゃんが悲しそうな表情で「わかりました」と返事をした後、彩ねぇは明らかに無理してニッコリと笑う。けいちゃんを見る目には、涙が溜まっている。

 そして彩ねぇは強く目を閉じ、頬に口元に近づけていたけいちゃんの頬に、ゆっくりと、静かな、キスをした。

「……それで……こそ……けい……ちゃ……だね……」

 ……そうか、彩ねぇは……けいちゃんを好きに……なれたんだ。

 今まで異性を好きになった事が無いと言っていた彩ねぇが、けいちゃんを……けいちゃんもまんざらじゃないようで……

「……死なないでくださいよ」

 けいちゃんが呟いた。

「……はは……うん……しな……な、あ……あ、ぁ、ぁ……!」

 救急隊員の「ショック状態」という言葉が、重く、耳にのしかかる。

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