業が、積み重なる
「安奈さん、本当に隠してる事なんて無いですから」
けいちゃんは私の手をギュッと握り返して弁解してくれた。その行動に、その言葉に、ものすごく心が温まる。本当にけいちゃんは頼りになる人間になったと、嬉しくもなった。
だけど同時に、安奈ちゃんに対して罪悪感も湧き上がる。だって、本当は隠しているんだから。本当は携帯電話で脳挫傷について調べていた。そしてその症状を見て私達は落ち込んでいた所だったのだ。
なんとも間の悪い時に帰ってきたものだと、落胆してしまう。
「安奈ちゃん本当だってば。私が安奈ちゃんに隠し事する訳ないじゃない」
私は明るい声で業を積みかさねた。
思い返せば……安奈ちゃんに関わってから業ばかりが積み重なっている。安奈ちゃんを狂わせた事に始まり、えいちゃんを事故らせ、けいちゃんを巻き込み、そして……取り返しのつかない事をしでかした……
私が関わるきっとろくな事が起こらない。そんな風に感じてしまう。それでも私は、精一杯の笑顔で安奈ちゃんに話しかける。また業を積み重ねる。
業を積み重ねたら積み重ねただけ、償っていかなければならない。そして償うためにまた業を重ねる。矛盾と感じていてもやめてはいけない。だってけいちゃんの言うとおり、これは私の罪だから。
「……彩ねぇ……なんで嘘つくの?」
安奈ちゃんは少し怒ったような顔をして私の目を見る。疑っているという目では無い。隠している事に対して怒っている目だ。
その目が、辛い……安奈ちゃんの視線が鋭い刃となり私の心をグザグザと突き刺し、引き裂いていく。
「嘘じゃないよ。今日は生理でちょっと気分が悪いだけ」
「さいねぇ!!」
豹変し大声を上げる安奈ちゃんを見て私は思わず「ひっ」と声を漏らし、体を硬直させた。
その様子に気付いてか、けいちゃんはより強く私の手を握る。握ってくれる。
「親友って言ったのは彩ねぇじゃない!! なんで嘘つくの!?」
「安奈さん……聴いてください」
「けいちゃんにはきいてないでしょ!?」
私は体をガタガタと震わせた……
普段の私ならなんとかしていた。なんとか出来ていると思う。だけど今の私は、駄目だ。
有香さんの話を聴いて以来、私の精神はどんどんと小さくなっていって、今じゃ笑顔を作る事にも難儀する。それほどまでに、落ち込んでいる。
「安奈さん……あのですね……」
「黙ってて!!」
……安奈ちゃんも、不安定なんだな。きっと私なんかより遥かに異常に近い存在。そんな気がする。
だって……顔がマトモじゃない。人間の、顔じゃない。
鬼。鬼だよ、今の安奈ちゃんの顔。自分の異状に、気付いてる……? 自分の顔、鏡で見た事ある……?
可愛いだけに、恐ろしいよ、安奈ちゃん……
「あっ……安奈ちゃん……」
私は震える声でゆっくりと話し出した。
「い……言うから……そんな……顔しないで……」
「彩子さん……」
けいちゃんが不安そうな顔で私を見る。強く握られた手を、私は「大丈夫」と言うように、強く握り返した。
「やっぱり何か隠してたんだ」
「ご……ごめんね……ごめんなさい……でも……」
「やっぱり!! 隠してたんだ!!」
安奈ちゃんは大声で叫ぶ。
「やっぱり!! 嘘ついてたんだ!!」
鼓膜が破れる……
それほどに安奈ちゃんの怒鳴り声は、大きい。
以前私が自身の中に感じた魂の叫び……それを安奈ちゃんも感じているのだろうか。普段なら決して出ないような、大きい声。
「だっ……だからそれは……本当にごめん」
「許さないゆるさないゆるうっっ……ゆるさない!!」
安奈ちゃんは舌を噛んだらしく一瞬どもるが、すぐにまた「許さない」を連呼する。相変わらずの大きな声で。
相当深く噛んでしまったのだろう、口から大量の血を流しながら「許さない」「ゆるうさない」「ゆるううさねい」と、狂ったように、狂った表情で、叫ぶ。
業が、積み重なる。業が、積み重なる。業が……押し寄せる……業に……つぶされる……
「けいちゃん……逃げよう」
……安奈ちゃんから逃げるのではなく、業から……逃げたくなった。目を背けたくなった……
私は小さく、無意識のうちに呟いていた。
手は、握られたままだった。




