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安奈  作者: はにゃにゃき
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感情と、理性

「なんとか言えよ」

 時計を見てみる。時刻は一○時を過ぎたあたりだった。

「何キョロキョロしてるんだ」

 そういえば洗面台の電球が切れている。あとで取り替えておかなきゃ。

 ……あ、冷蔵庫の中に食べ物残ったかな……買出し……松本さんついてきてくれるかな。

「ねぇ松本さん」

「んだよ」

「あとでお買い物行きたいんだけど」

「あぁっ!」

 ビクッと私の体がすくみあがった。まさかここまで怒るなんて……そんなに私と歩く事が嫌なのか。それもこれも私の外見のせいなんだろう。私は異形の人間だ。

「あ……いえ……すみません」

「チッ」

 また舌打ちされてしまった。やっぱり私は駄目な子らしい。

 少しわがままなのかも知れない。気をつけないとアパート追い出されちゃう。

「お前、俺の言った事聞いてたか?」

「……うん」

 聞いていた。

「お前と、店長は、いつからあんな仲になったんだよ。なぁ、大声出させるな。わかるな?」

 あ、いけない、洗濯しないと着る服がなくなっちゃう。

 私は腰を上げて急いで洗濯機のところまでかけていった。

「洗濯しなきゃいけないよね。洗濯するね」

「……このっ! あんなぁぁああっっっ!」

 松本さんは鬼のような形相で私を追いかけてきて、思いっきり私の両肩を掴んだ。

 ビリビリと、私の肩に痛みが走る。

「いた……痛いよ松本さん」

 痛みを与えるのはやめて欲しい。痛いのは嫌いだから……。

「安奈、お前……」

「……え?」

「お前、おかしいよ……しっかりしろよ……安奈……」


 松本さんがまっすぐな目で、私を見つめる。

 松本さんがうっすら涙を溜めて私の顔を見つめる。

 だめだ……やめてそんな目をしないで欲しい。

 考えたくない。認めたくない。信じたくない。

 問い詰めるのはやめて、やめて、やめて、やめて、狂う、狂ってしまう。放棄させて。思考を。事実を。現実を。

 あぁ、あぁ……引き戻さないで。思い出させないで。そんな目で、私を見ないで。

 泣いてもいいのだろうか。泣いて発散しても、許されるのだろうか。

「グスッ……うん……グスッ……ごめん……なさい……」

 松本さんの指から、力が抜けていく。

「……グスッ……ごめん……ヒクッ……ごめんね松本さん……ごめんなさいぃっ……うぅっ……うぅっ……わぁぁんっ……!」

 私は、思いっきり泣いた。

 松本さんの体にしがみついて、泣きじゃくった。

 狂わないように、すべての想いをぶちまけるように。

 松本さんが、離れていかないように。思いっきり力を込めて松本さんを引き寄せながら、泣いた。

「わぁぁっ……!! わぁぁぁあああんっ!」

 泣くという行為は、ストレス発散のためにとても重要だと、アイツが言っていた。

 だから私は泣く。私のストレス発散方法は、泣くか、狂うか。

 だけど胸を貸してくれる人なんて、そうは居ない。だから私はよく狂う事にしている。

「……安奈」

 松本さんは、しがみつかれる事を拒否はしなかった。だけど決して抱き返してはくれない。

 それでも私は泣き続ける。

 狂わないように。狂わないように。松本さんの胸をびちゃびちゃにしながら、泣き続ける。


「……本当の事言ったら松本さん許してくれるの?」

「……いいから話せよ」

 私たちはリビングに戻り、座布団なんて気の利いたものが無いので布団の上に座りながら話した。

 松本さんはあぐらで座って、私は別に命令されてではなく、自主的に正座をしている。

「……う」

「眼、見れよ」

 見れる訳が無い。

 私はうつむいたまま黙り込んでしまった。

「はぁ……あのな安奈」

 松本さんは足を組みなおして私の顔を掴み、無理やり自分の顔を見させた。

 あぁ……私にはもう、余所見をする権利すら無い。

「……俺が、怖いのか?」

 怖い……?

「俺は、お前に、暴力を振るった事があるか?」

 無い。一度だって、無い。

「俺は無いと思っている。それなのに、何が怖い……? 何を恐れている……?」

 私は……。

「何が怖いのか、言ってみろ」

「私は……」

 私は、一人が怖い。

 一人になって、寂しくなるのが怖い。

 屋根のある場所や、風を通さない壁が無くなるのも怖いけど、やっぱり一番怖いのは、一人になること。

「私は……」


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