平穏
まったく彩ねぇは……私と二人っきりの時はそれでもいいかも知れないけど、今は啓二君が来ているというのにだらしない格好をしている。
……困ったお姉さんだ。
「彩ねぇ。今は啓二君が来てるんだから……」
私は彩ねぇのパジャマをぐいぐいと引っ張って起こそうとする。
「ん〜?いやだってさ、知り合ったばっかりだと言っても堅苦しい事ばっかしてたらいつまでたっても仲良くなれないじゃん。だからけいちゃんも安奈ちゃんもいつも通りにしたほうがいいと思うよ」
彩ねぇはそう言ってガバッと起き上がって私とけいちゃんの顔を見比べる。
「せっかく友達になったんだからさ、楽しく過ごそうよ」
そう言って彩ねぇはニコっと笑って啓二君の顔を見つめた。
啓二君もまんざらじゃないようで、困惑しながらも「あ、はい」と言って微笑みを浮かべている。
……なるほど、やっぱり彩ねぇはすごい。と関心した。
啓二君の顔からは緊張の色が抜け、少しリラックスしたような印象を受ける。
これが私を惹き付けた彩ねぇのカリスマ性というか……人の心を無防備にするチカラ。
なんだかとっても羨ましい。だけどものすごく頼もしい。
本当にあこがれる。こんなすごい女性、今まで見た事ない。
それからは、私たちはそれぞれゴロゴロと過ごしていた。
座っている啓二君を中心に私と彩ねぇが寝転がり、世間話をする。
啓二君もずいぶんこの場に慣れてきたようで、もうオロオロとする事はなくなっていた。
なんだか……とっても楽しい。
「けいちゃんって早く大人になりたいクチ?」
「……そうですね。時々思ったりします」
「やっぱりね、そんな感じしたよ。でも人生経験の豊富なお姉さんから言わせてもらうと、大人になったらかなり焦るよ。私なんか来年の4月でもうハタチだしねぇ。ハタチだよハタチ。解る?この焦り」
彩ねぇはそう言って私のほうをチロッと睨む。
「まぁ、見た目は安奈ちゃんのほうがよっぽど大人びてるけどね」
確かに……という言い方は失礼かも知れないが、彩ねぇは黙っていれば中学生でも通るような容姿をしている。
小さくて、綺麗というより可愛い系の顔立ち。体も細く、正直に言うと胸もぺったんこ。
とても中身と外見のギャップが激しい人だ。
「そんな。彩ねぇは素敵ですよ」
私はニコっと笑いながらそうフォローする。
いや、フォローという言葉には語弊がある……私は本気で彩ねぇを素敵な女性だと思っているんだから。
彩ねぇは一瞬微笑んで優しい顔をした。
「安奈ちゃんは優しいなぁ〜。容姿端麗、性格良好。私が男だったらほっとかないわ」
そう言って彩ねぇはいやらしい目をしながら啓二君を見つめる。
私もつられて啓二君の顔に目をやると、なんとも複雑そうな表情をしながらうつむいていた。
……彩ねぇはこういう事には非常に鼻が利く。どうやら啓二君が私に気があることに気がついているようだ。
「……まぁ、安奈ちゃんには松本君が居るしねぇ〜」
そんな追い討ちをかけるような事、わざわざ言わなくても。
彩ねぇは確かに素敵な女性ではあるのだけれど、性格は捻じ曲がりすぎているようだ……
私は「あはは」と小さく笑い、気まずい空気に耐え切れず枕に顔をうずめた。




