友達
「それでね〜、その先輩が私の携帯から松本君の番号消しちゃってさ」
彩子さんは苦笑を浮かべながらそう語っていた。
私は布団の上で寝転がり、枕を顎の下に敷きながら彩子さんのその表情を見て「そうだったんですか」と答える。
「思いのほか束縛するタイプでさぁ……松本君と連絡が取れる状態っていうのも許さなくって。しかも毎日私の家に来てたしさぁ、居留守せざるを得なくなって」
彩子さんは食事を済ませた後、いったん自分の家に帰ってから親御さんに事情を説明し、自分の荷物を取ってこの部屋に戻ってきていた。
彩子さんの寝巻きはものすごくかわいらしい柄をしている。ピンクの生地にテディベアの模様が無数にちりばめられていた。
話してみて解った事なんだけど、この人、最初のイメージと全然違う。
最初は……自分が可愛いって事を鼻にかけている、高慢で我侭で自分勝手な女の人だと思っていたのだが……いや、事実そんな部分もあるんだけど、なんて事は無い。この人は、普通の女の子だ。
いやむしろ、自分の意見をしっかりと持っていて、一本筋の通った、真面目な印象を受ける。
元気だし、明るいし、美人だし……そりゃ、モテる。松本さんがかつて惚れていたのも、ちょっと悔しいけど納得してしまった。
「本当はね、松本君にちゃんと連絡したかったんだよねぇ……謝りたかったし。嘘じゃないよ?」
「うん、解ります」
私たちは夜通しお話をしていた。
ご飯を食べ終わって彩子さんがいったん家に戻ったあと、帰ってきてから今までずっとお話をしている。
最初はお互いの自己紹介から始まって、次に私の話。やっぱり真っ先に聞かれたのが頭の耳について。
とりあえずピクピクと動かしてみせたら、彩子さんはものすごくビックリしてベタベタと触ってきた。一時間くらいずっといじくられていたけど、不思議と嫌じゃなかった。
そして次に私の過去について、彩子さんの昔話。私と松本さんの出会い。彩子さんと松本さんの出会い。色々な話をした。
そんな調子で、かれこれもう8時間くらい話し続けている。不思議と疲れてはいないし、眠たくも無い。
久々にこんなに会話をしたから、楽しくて仕方ないのだろうか。
眠るのがもったいない。もっともっとお話をしていたい。そう思っている。
「でも私ってば、松本君の事さぁ……別に好きじゃなかったって言うか、友達に自慢できるような人だから〜って理由で付き合ってたんだよねぇ」
「松本さん格好いいですもんね。でも……なんだか不快です」
「はは……私って最っ低だな〜って、昨日の安奈ちゃん見てたらそう感じたよ」
「うん。最っ低ですね」
私は冗談交じりに笑顔でそう答える。
「あらら……言われちゃったなぁ〜……」
彩子さんはまた苦笑いを浮かべて頭の後ろをポリポリと掻いた。
私はその様子を見てクスクスと笑う。
なんだか……松本さんと一緒に居る時とは違う幸せを感じる。
とっても暖かい気持ちにさせられる。とっても楽しい気持ちにさせられる。
この人はなんだか不思議と心を惹きつける何かがある。心を無防備にさせる何かがある。
知り合って間もないのに、お互いが話せるような共通の話題を選んで話してくれる所とか、細かい事なのかも知れないが、今の私にはすごく嬉しい事だ。
そういった才能はとっても羨ましい事ではあるんだけど……それ以上に私は今、嬉しい。
「ねぇ、彩子さん」
私は彩子さんの目を見つめた。
「ん?なに?」
彩子さんは苦笑いの顔のまま私の目を見る。
私の心は今、完全に無防備な状態……
伝えなきゃいけない。そんな気にさえなっていた。
「……友達になってくれて、ありがとう」
私は少し照れながら、でも彩子さんの目をしっかりと見つめながら、そう告げた。




