責任と罪悪感
私は今十四歳。
本来だったら、中学校へ通っているはずの年齢。
学校へ通って、退屈な授業を受けたり友達と手紙を回したり。
放課後、部活をやって汗を流したり、友達とお話して笑っていたり。
なんでもない日常を送っているはずだった。
だけど私は。
「いらっしゃいませ。こちらは暖めますか?」
だけど私は毎日、偽りの笑顔を作りながら、コンビニのレジ打ちをしていた。
ピッ、ピッ、ピッという機械音が規則正しいテンポで私の手の動きにあわせて鳴り響く。もうこの行動で戸惑う事は一切無い。
「三点で八八○円になります。一○○○円からでよろしいでしょうか?」
本来、十四歳ではコンビニでのアルバイトなんてしてはいけない。せいぜい新聞配達程度の仕事しか出来ないのが普通だ。
でも私の場合は、松本さんが店長を説得してくれて、なんとか働かせてもらえる事となった。
時給は500円という破格ではあるけど、家賃と食費を払えないのは本当に申し訳ない気持ちになってしまうから、私は別にこの待遇で構わなかった。
少しでも松本さんの役に立っていられるというなら、私は頑張れる。
「ありがとうございました」
私は店内に残っていた最後の客を偽りの笑顔で見送った。
「ふぅ……」
朝のラッシュが終わって一息つき、なんとなく時計を見てみると9時を回っている。
松本さんはちゃんと起きて大学に向かっただろうか……なんて事をぼんやりと考えていた。
コンビニの仕事は以外とやる事が多く、客が居ない間にも荷物の仕分けや掃除、棚の整理などの作業がある。
人の居ないこの時間に出来るだけ多くの作業をしておく必要があった。
とりあえず私は店長の奥さんの仕事を手伝おうと思い、売り場へと歩いていく。
「お疲れさまです」
「あら、安奈ちゃん。どうしたの?」
私はしゃがみながら荷物の検品をしていた正美さんに話しかけた。
美人な人ではないし、少し太り気味の奥さんではあったけど、私に凄く優しく接してくれる人。松本さんの次に好きな人だ。
「今お客さん居ないので、私もお手伝いします」
「あらホント。もう九時過ぎてるのね」
奥さんは立ち上がり「ん〜」と背伸びをして腰をトントンと叩いて「いたた…」と声を漏らす。
私は奥さんのその仕草を見て思わず「クスッ」と笑った。
「安奈ちゃん悪いんだけどさ、この仕事やっておいてくれないかな?」
「あ、はい。いいですけど、正美さんは?」
「私ちょっと出かけなくちゃいけなくて」
奥さんの言葉を聴いた瞬間、私の肌は鳥肌を立たせる。
「ごめんね、一時間くらいで帰ってくるから。お願い」
「え……でも」
居なくならないで欲しいという言葉が頭の中に浮かぶ。しかしそれを、口に出す事は出来ないでいた。
足踏みさせるこの感情は、何だろう。
「ん?」
「いえ……やっておきます……」
「本当にごめんね。帰ってきたらお昼ご飯おごるからさ」
奥さんは私の頭を優しくポンと叩いて「それじゃお願いね」と言い、足早に店を出て行った。
お店のドアを開けた時のピンポンピンポーンという音が悲しく響く。
「……嫌だ」
私は鳥肌を立たせ続けていた。
「安奈ちゃ〜ん」
事務所のほうから、店長の大きな声が聞こえてきた。
「安奈ちゃん?おいでよ〜」
体が小刻みに震える。歯がガチガチと音を鳴らす。
「安奈ちゃ〜ん? 何やってるの〜?」
ガタガタッと店長が乱暴に椅子から腰を上げる音が聞こえた。
「あっ……い、今いきますっ!」
私は震えを必死に押さ込み、嗚咽をかみ殺し、ゆっくりと事務所へと向かって歩き出す。
これから起こる事に対して、私は血が出るほど唇をかみ締めながら、松本さんと正美さんに心で謝罪した。
あぁ、いやだいやだいやだ。
なんで? なんで私なのだろう?
ごめんなさい……生きるためにではなく、死なないために、店長に犯される事を、許して松本さん。
そう、自分に言い聞かせた。




