悲観
病院に到着して、一時間くらい経っただろうか?
僕はその間ずっと安奈さんの肩を抱いていた。
安奈さんは、呟き続ける。「ごめんなさい」と、延々と繰り返し呟く。
うつむき、どこか一点を見つめているような、それでいて何も見ていないような……そんな目をしている。
時々、ブルブルと体を震わせて「あ」と言う。しかしすぐにまた「ごめんなさい」を繰り返していた。
そんなに、ショックだったのか……あの松本さんって言う人が事故にあった事がそんなに。
不謹慎である事は解っているんだけど、なんだか……悔しい気分になってしまう……
松本さんっていう人はどうやら意識を取り戻し、今正式な手当てを受けている。まだ安奈さんとは顔を合わせられる状況では無いそうだ。
それにしてもあの彩子さんっていう人、すごく小さくて小柄だけど、見た目とは裏腹にものすごく頼りになる。
松本って言う人の入院する手続きや検査への同意書へのサインなんかをテキパキとこなしていった。僕よりも全然状況がつかめていないはずなのに……素直に、すごいなと思った。
「ねぇ君、名前なんていうの?」
その彩子さんが一通りの用事を済ませたようで、僕にジュースを渡しながら話しかけてくる。
今までの緊迫したような表情から一転して、場を和ませようとしているのか、軽く微笑んでいた。
「……僕は、長谷川啓二っていいます」
「啓二君……ね。じゃあけいちゃんでいい?」
彩子さんはポカンとしている僕の顔を見てにっこりと笑い「あっれ?気に食わない?それともケイジだからデカとかの方がいいのかな」と言って「あはは」と笑いながら安奈さんの隣に座って足を組み、買ってきていたコーヒーの蓋を開けていた。
右から僕、安奈さん、彩子さんの順で待合室の椅子に腰掛けている。なんとも……奇妙な光景だ。
僕は安奈さんと正式に知り合いになったばかりで、この彩子さんという人とは初対面。
それなのにこうして並んで座っているなんて……なんとも奇妙。
「ちょっと聴きたいんだけどさ」
彩子さんが口を開く。目は僕を見ては居なかったけど、安奈さんはこんな状態だし……僕に話しかけているのだろう。僕は「はい……なんですか?」と答えた。
「えいちゃん…松本君が事故った状況なんだけど、いまいちまだ良くわからないのよね。けいちゃんは目撃したんでしょ?ちょっと教えてくれる?」
僕の呼び名はもうこの人の中で「けいちゃん」に決まってしまったようだ。
そんな呼び名、誰にも付けられた事ないよ……
「えっとまず……僕と安奈さんが住宅街の中道を歩いていたんです……」
「ふぅん」
「そしたら反対車線からバイクに乗った松本さんが急発進して、横滑りして転倒したんですね。そしたら後ろから迫ってきていた白い軽自動車が急ブレーキをしたんですが……松本さんの体にぶつかって、2メートルくらい吹っ飛んで……頭を打ってました」
その後バイクは横滑りし続け、電柱とぶつかって止まっていたがまだエンジンは動いていた。と付け加えて説明した。
「こんな感じですかね……」
彩子さんは僕が話している間、複雑そうな顔をして安奈さんの顔を横目で見ていた。
そして僕が話し終わるとおもむろに肩まで伸びた髪をグシャグシャとかき乱す。
「あぁ〜もぉ〜……」
僕はその様子を見てからまた安奈さんへと視線を移した。
なんだか……変な気分だ……
今日は本当なら今頃、友達とクリスマスパーティーをやっていたはず。
それなのに僕は今、良くは知らない美少女二人とならんで、知らない男の人のために病院にきている。
しかもこの様子を見たら、安奈さんも彩子さんもあの松本っていう人とは深く関わっているようだ。
特に安奈さんなんかおかしくなっちゃっている……
僕は、何しているんだろう。
不謹慎だけど、なんだかすごく悲しくなった……




