サイレン
遠くから救急車のサイレンの音がする。
ピーポーピーポーが……少しずつ、近づいてきた。
「ピーポーピーポー……」サイレンにつられて口走る……
……嫌な予感というのは、当たって欲しくは無いものなのだが……
私は不安でいてもたってもいられなくなり、えいちゃんの部屋の外へといそいそと出て行く。
このアパートは少し大きな道路が目の前にあり、車の通りもそこそこ。
もし救急車がこっちに近づいてくるのだとしたら、必ずここを通るはずである……
サイレンの音が、次第に大きくなる。
どんどんと、近づいてくる。
……どんどんと……近づいてきて……救急車が視認できて…
アパートの手前でスピードを落とし、私の目の前で、止まった。
「……え……?何……?」
混乱していると救急車の後ろのドアがガチャリと開き、そこから勢いよくあの安奈という子が飛び出してくる。
その表情は……ものすごく必死だ……
涙を鼻水も垂れ流し、しかしそれらにはちっとも気にとめていない様子。
必死な顔をしながら、私を見つけ、大声を上げた。
「あぁ良かった!! まだ居てくれたんですね!!」
「……よ……良かったって……」
何が、なんだかわからない。
「とにかく! 乗ってください!! 乗ってください!!」
安奈って子は私の腕を掴み、強引に引っ張る。
「ちょ……ちょっと待って……どうしたっていうの……?」
「松本さんが…っ!!」安奈はそう言って一度頭をブルブルと振るわせる。そして「乗ってから説明しますから!」と続けた。
……この子にとって、何かを私にお願いするなんて、よほどの事が無い限りする訳がない。
その「よほどの事」がきっとえいちゃんに起こっている。
私はそう確信し、急いで救急車へと乗り込んだ。
救急車へと乗り込んで名前やえいちゃんとの関係について2,3質問を受けたあと、今度は私が救急隊員の説明を受けた。
「頭の外傷は一見酷いように見えますが、応急手当として止血しているので問題ありません」 その後に違う隊員さんが「精密検査をしてみないとはっきりとは言えませんが。脈も呼吸も安定しているのでおそらく大丈夫でしょう」と付け加えていた。
「目立った外傷も無く、骨折もおそらくしていません。雪道だったのでバイクも車もゆっくり走っていたからでしょうね」
私は「そうですか」と、安堵の言葉を漏らした。
えいちゃんは意識こそないものの、特別苦しそうにも辛そうにも見えない。顔色も良い。「疲れたからちょっと寝てる」そんな印象さえ受けるほどに安定している。
病院についたら検査をして、何も問題が無ければ2,3日で退院できるとの事。
「そっか…だってさ、安奈ちゃん」
私は安奈のほうを向いてゆるくニコッと笑ってみせた。
「……ごめ……なさ……ごめ……」
……むしろ問題なのは、安奈のほうだ……
……真っ青な顔をして、ブツブツと何かを呟いている。
どこを見ているのか……目を薄く濁らせているように見える。茶色のダッフルコートをフードまでスッポリとかぶり、小さく縮こまりながらブルブルと震えていた……
安奈と同い年くらいの男の子が、安奈の肩を抱きながらオロオロとしている。こんな時、どうして良いのかわからないようだ。
「……」
……そんなの、私にだってわかんないわよ……助けを求めるような目で見られたって……
私なんか安奈には恨まれているはずだし……どうにも出来ない……
どうにも出来ない……




