発見
時速25キロで走行……くそ、全然前に進まない。
しかしこれ以上スピードを上げたら、本当にバイクのコントロールをなくしてしまう。
カブや車高の高いバイクならまだマシなのだろうが……
俺の乗っているバイクはYAMAHAのビッグスクーター。車体は低く、しかも両足を地面に付けて運転できるほどでは無く……正直、最悪のコンディション。
いっそバイクから降りて、足で探してやろうか……と思うほどに前に進まない。
「くそ……くそ……」
……いや、足で探すよりは遥かにマシだ……
信号だってそんなに多くない。車だって…多いほうじゃない。
車道の左側を走ればそんなに危険だって無いはずだ。
俺が事故って安奈の帰る場所を無くしてしまっては本末転倒というものだ。
落ち着け……大丈夫。
安奈は……喧嘩したあの日……もう何日前になるのだろうか、あの日。
俺は一瞬、二重人格なのではないだろうか?と思ってしまった。
本物の二重人格を見た事は無いのだが……なんだか、それっぽい挙動ではあった。
だが、違う。安奈はそんなんじゃない。
あの日から一週間、俺は安奈とずっと一緒に居た。
それは安奈の事をもっと良く知りたいと思ったからである。
一年間安奈と暮らしていたというのに……俺は安奈の事なんてほとんど何も知らない状態だった……
なんて恥ずかしい……そしてなんて最低なんだ……と自分をさげずんだ。
一緒に暮らしているとはいえ、安奈はずっと孤独を感じていたに違いない……
せめてもの罪滅ぼし……というのは虫が良すぎるが、とにかく俺は安奈と一週間、ずっと一緒に居た。
すると俺は俺なりの答えを導き出し、愕然とする。
安奈は二重人格では無く、自分で感情をコントロールする術を持っている。という事。
だがしかし、一度火がついたら、壊れてしまう。狂ってしまう。という事。
野良だった3年間で身に付けた術なのか、それとも誰かに教え込まれてしまったのか……解らない。
俺が解る事は、それはなんて悲しい術なんだ……という事。
死なないためには、冷静でなければならない。
食べる事を忘れてはならない。お金を手に入れなければならない。
だがしかし……強烈なダメージが精神に与えられると一転、狂ってしまう。
狂う事で、辛い事から逃れてきていたのだろう……そうじゃないと、辛くて死んでしまうから。
……良く、今まで耐えてきたな。
一緒に住んでいる俺に冷たくあしらわれ……店長に犯され……心通わす友すら居なく……
少しでも俺に興味を持ってもらおうと……毎日のように俺をホテルへ誘い……
歯を食いしばりながら……狂う事を我慢してきたのだろう……きっと野良だった頃と比べて「まだマシ」なんて思っていたのだろう……幸せになる権利は、自分には無いと決め付けていたのだろう……
なんて悲しい、運命なのだろう……
フルフェイスタイプのヘルメットのため、涙をぬぐいにくい。それに冬道に片手走行なんて無理だ。
だがしかし、先を急がなければならない……どうせバイクを止めてぬぐったって後から後から涙なんて溢れてくる。
……やはりバイクでの捜索を打ち切って、足で探すか?
……だけど、少しでも早く安奈を見つけなきゃ……
自分の心の迷いに……焦りに……嫌な予感がする……
しばらく走行し、あまりひと気の無い住宅街に出た。あまり通らない道だったので定かでは無いのだが、この先には確か公園があったはず。
……しかし、安奈はこんな遠くまで来るだろうか?歩いてくるなら30分はかかる場所……
「くそ……居る訳ねぇ」
俺は引き返そうと思い、いったんバイクを止めてヘルメットを取った。
そして一度涙をぬぐい、顔を両手でパンと叩く。
「泣いてるんじゃねぇ」泣くのは、見つけてからだ。
自分を落ち着けるために深呼吸をする。
一回……二回……三回……
俺は「よし」と呟き、もう一度ヘルメットを手にとる。絶対に見つけ出す、と、もう一度心に誓って。
ヘルメットをかぶろうとした瞬間……遠くのほうで中学生くらいの男女がこっちに向かって並んで歩いてきていた。
フードをかぶった少し背の高い女性が先を歩き、その少し右後ろを挙動不審な様子でキョロキョロしながらついていっている男が居る……
「……あの背丈……」
女性にしては、少し背の高い……
隣の男よりも若干高い……
直感的に、理解した。
安奈……
ヘルメットを投げ捨ててハンドルをひねる。
「安奈」
思わず声に出る。
「安奈っ!!」
そこで、俺の意識は無くなった。




