誰でも
私は公園のベンチに座っている。
ベンチには雪が積もっていたけど、親切な人がほろってくれた。
さっきまではものすごく寒かったけど、この親切な人が自分の着ていたコートを貸してくれているので、今はそれほどでもない。
そして私は今、少しだけちらついている雪をながめながらこの親切な人の話を聞いている。
「寒くないですか?」
「……うん」
私は5度目の同じ質問に相槌を打った。
親切な人は「はいこれ」と言いながら私に温かい缶コーヒーを渡してくる。
私は「ありがとう」と言いながらそれを受け取り、ちょっと微笑んでみせた。
親切な人は照れているらしく、小さく「はは」と笑いながら頬を赤く染まらせる。
「……座ったら?」
私は自分の右隣の席をポンと叩いて親切な人を促した。
「あ……う、うん」
親切な人は「い……いいのかな……」と言い、おどおどしながらも私から少し離れた場所に腰を下ろす。
「いやでも本当……安奈さん突然辞めちゃうんだから、皆ビックリしてましたよ」
どうやら私は、ちょっとした有名人だったらしい。
中学生が登校する時間、私はほぼ毎日コンビニでレジ打ちをしていた。
頭に黄色のバンダナを大きなリボンのようにして巻きながら笑顔を絶やさず仕事をしている 私の姿は、思春期である中学生の憧れの的だったらしい。
可愛さと大人っぽさが混合している……だなんて……よくもそんな事を言えるものだ。恥ずかしい……
男子ばかりか女子までもが一緒になって隠れて私の姿を見に来ていたそうだ。
いつしかファンクラブ染みたものが出来、毎朝私がレジ打ちをしている時間を見計らっては 仲間同士競うように私のレジに並んでいたと、この人は言っている。
どうりで忙しかった訳だ……
「で……でもさ、まさか僕と同い年だったなんて……思っても見なかったなぁ」
「……そうだよね」
「う……うん……そう」
私は、雪を見つめていた。
「ぼ……僕の名前は長谷川啓二……って言います」
ちょっと髪の毛を茶色に染めている童顔のこの男の子はそう名乗った。
「私は……知ってると思うけど安奈」
私はコーヒーを一口すすって小さく深呼吸をする。
「松本安奈っていうの」
「松本って言うんですか、知らなかったな」
啓二君は「よし」と小さくガッツポーズをしている。
「……何?」
「え!? あ、いえ」
そう言って啓二君はまたおどおどする。
落ち着くためだろうか、一度コーヒーをすすった。
「いや……だってさ……僕の学校じゃ誰も安奈さんの苗字なんて知らないから。なんか、得したなぁって」
……そうだった。
私がコンビニでアルバイトをしている時、私のネームプレートには苗字ではなく『安奈』と書かれていたのだ。
それは……本当は私に苗字が無かったからなのだが……
「……ふぅん……」
「……う……うん……はは」
啓二君は決して目を合わせてはくれない。
いつもおどおどして、私が顔を見ようとするとすぐに目をそらしてしまう。
……普通の中学生って、こんななんだ……なんて、しみじみ思っていた。
「……啓二君はあれだね、純粋だね」
「へ!?え…?何…」
私は、雪を見つめていた。




