クズのような幸せ
二人はまだ玄関先にいた。安奈って子は未だワンワン鳴いている。
えいちゃんは小さい声で「ごめん、今日だけだから……」を繰り返しながら安奈って子の頭をなでていた。
「今日だけ……だから……」
……はは。そうだよ。今日だけは私のえいちゃんなんだから。
だから、早くこっちに来てよ。いつまでその安奈って子に構っているのよ。
なんてね……別に全然かまわない。もともとこのような展開にするために来ているのだから。
「えいちゃ〜ん、このステーキもう食べごろだよ?食べていい?」
安奈って子は私のこの言葉を聞いてより大きな声で鳴いた。
「お前っ!!」
えいちゃんが叫ぶ。
「あはは、うそうそ」
……はは。怒られた。
……
なんだかスッキリしない気分のまま、この部屋をぐるりと一周見渡してみる。
まず真っ先に目に飛び込んできたものは綺麗に折り畳んである布団。布団が二つ並んで置いてあった。
…ふぅん。別にいいけど。
その他には向かって左側にタンスがひとつと本棚ひとつ。右側の奥にテレビがひとつ手前に テーブルがひとつ。正面に電子レンジがラックの上においてあってその下に炊飯器がひとつ。その隣におそらく備え付けの小型の石油ヒーターがひとつ。
他に目につくものは何も無い。
なんともまぁ……良い言い方をすると、スッキリとした部屋。
これじゃあDVDも見れないしCDも聴けない……
「……無趣味すぎ」
私はテレビの電源をつけて椅子も座布団も無いので畳んであった布団の上に座った。
えいちゃんはまだ玄関で安奈って子をなだめようとしている。
なんだかな「もぅ」って気分だ。
……意地だけで、あんな事を言っちゃった事を、今は少し後悔している。
あんな姿のえいちゃん、見たくなかった。
犬の耳のカチューシャをつけた、私とは何の接点も無い、訳のわからない境遇の、女の子……
今はその子がえいちゃんを独占している。
来なきゃよかったな……そんな風に思ってしまった。
私は、意地だけで生きてきた。
意地を張ったら、良い事があるって。思い通りになるって。
そう信じて生きてきた。
実際、意地を張っているとすべてが自分の思い通りになる。
意地で進学校へ入学したし、意地で生徒会に入り皆に尊敬されたし、意地で仲間を集めたし、意地で超倍率だったえいちゃんを手に入れたし、大学でも超倍率だった先輩を手に入れる事が出来た。
振り返ってみても輝かしい、すばらしい過去。
今更生き方は変えられない……けど、最近気づいた事がある。
意地を張っていたら、自分が、自分でなくなっているって事…
辛い事を辛いと思わないようにし、意地を張って切り抜ける。
弱音を吐かず、いつも気丈に振る舞い、強い女でいる。
つまり、誰にも弱い私は見せられない。
だって私は、我侭で、傲慢で、高飛車で。だけど強くて頼りになる。いざって時の行動力決 断力は人一倍……そう思われるように振舞ってきたから。
別に、良い。今更、いいよ。
だけど今……
私って、意地を張ってこんな事がしたかったのかなぁ……って、思っちゃってる。
まいったなぁ……意地を張ることで嫌な事が増えちゃうなんて。
「ねぇえいちゃん」
私は少しだけ声を張った。
えいちゃんはまだ安奈って子をなだめている。多分、気づいていない。
「私、このままでいいのかなぁ」
返事は無い。




