うたかたの幸せ
ピンポーンという電子音がお肉を焼いている音に割って入る。
よし、時間ぴったり……なんて思って私はにやけていた。
とりあえずコンロの火を小さくし、フライパンに蓋をしてから「ちょっと待ってね」と大声で玄関にむけて叫んだ。
私はひそかに買っておいたクラッカーを取り出し、いそいそと玄関へと駆けていく。
部屋の鍵をはずし「鍵あけたよ」と扉の向こうにいるだろう松本さんに声をかけた。
ドアのノブがまわり、ゆっくりと玄関の扉が開かれる。
私は心の中で「今だ」と叫び、クラッカーの紐をひっぱった。
「ハッピークリスマスイブ!」という私の声とともに、勢い良く飛び出す色とりどりの紙ふぶき。
あぁ……今……涙が出るくらい幸せ。
思えばどれほどこのひと時を待ち焦がれていた事か。
野良になってから一番嫌な季節は冬だった。だって冬は、寒いから。
だけど今は違う。今は私を暖めてくれる人が居る。大事にしてくれる人が居る。愛してくれる人がいる。
そして、今日は愛し合う二人にとって、特別な日……
早く、早く松本さんにしがみつきたい。
「松本さん〜っおかえりぃっ……」
!?
「どうもぉ。貴方が安奈ちゃん?」
確かに、松本さんは帰ってきた。
松本さんはビックリした顔をして私の顔をぼーぜんと眺めている。
「あらら、本当に可愛い子ね」
でも……誰……?
貴方、誰……?
「いや、ほーんと、びっくり。私なんか全然かなわない訳よねぇ」
「誰……?」
「……こいつは、俺の……」
「元、松本君の性具でぇっす」
元性具は、ピースをして二カッと笑った。
「性具って……言い方はねぇだろ……」
「なぁ〜に純情ぶってんのよ。ったく、この子だってもう子供じゃないんでしょ?」
元性具はそう言って、ずかずかと私たちの部屋へと上がりこんできた。
玄関でぽけっとしている私の体に肩が当たり「あ、ごめぇん」って、言ってた。
……え?
何が、起こってるの……?
頭が真っ白になるって、こういう事を言うのかな……
何も考えられない……
考えたくないんじゃない。考えられない。
考えられない考えられない考えられない。
完全に思考が停止している……
「……え……?」
「……ごめん……」
松本さんは、小さく謝った……
違う……なんで謝るの……?
そうじゃない……今は思考を回復させて欲しいだけ。
別に怒ってない……全然怒ってない……
とりあえず、説明……
「あ〜!ステーキじゃん!すっごく高そう!」
部屋の奥から元性具の大きな声が聞こえてきた。
……あ、そうだ。私料理してたんだ。
急いで準備しなきゃ。
失敗は出来ない。だって私にとって初めての……
……初めての……っ……
「うっ……うぁっ……うぅっ……」
松本さんが、悲しそうな目で、私を見る……
「うわぁぁぁぁぁんっっっ!!」
膝から崩れ落ちて、その場で泣いた……




