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安奈  作者: はにゃにゃき
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幸せの形

「ふんふんふん」

 私は鼻歌をうたいながら料理の本を片手に、キッチンに立っていた。

 今日は一二月二四日。つまりクリスマスイブ。

 いつもどおりのお惣菜を買ってきて、いつもどおりの夜にはしたくない。今日は初めて本格的な料理に挑戦しようと思っていた。

 ケーキはさすがに買ってきたが、夕食はせめて私の手料理を松本さんに食べてもらいたい。そう思うと、俄然やる気が出てくる。

「喜んでくれるかな」

 私は躍る心を声に出して言ってみた。


 もうひとつ……心が躍る理由がある。

 今日は聖夜。つまり日本ではカップルのための夜。

 プレゼントを貰ったりあげたり。人目を気にせずイチャつけたり。

 私は今夜の事を思うと、自然に顔がにやけてしまう。

 松本さんは朝から今年最後の授業を受けに大学へ向かった。たしか今日は午後になってすぐに帰ってくる予定。

 帰ってきたら……松本さんにいっぱい甘えよう。


 私は炊飯器にお米をセットしボタンを押して一息つく。そして昔の事を思い返してみた。

 そういえば、もうそろそろ私と松本さんが最初に出会って一年が経つ。

 私と松本さんの出会い……それは真冬の白い奇跡……なんて言うのはちょっと大袈裟だけど、私にとっては本当に、人生の変わった瞬間だった。


 あれは真冬の寒空の下。雪は静かに降り積もり、私が履いていたブーツよりも積雪が高くなっていた。

 当時この土地に来てまだ間もなかったので頼れる人もおらず、移動費や今までの宿泊費などでお金も底をついていた。

 私はその日の寝床が見つからず、私を買ってくれる客も見つからず、仕方ないのでこの日は公園の屋根のついているベンチで夜を明かす事にしたのだ。

 持っていたカバンを枕代わりにし、公園のベンチに横になる。膝を折ってお腹を冷やさないよう丸くなる。


 さて寝ようかと思ったその時、おなかの虫がグゥと鳴る。思い返すと丸一日何も食べていない事に気が着いた。

 面倒くさいけど……死なないために、何かを食べなければならない。

 私は少ない荷物を持って、この公園から最寄のコンビニへと向かう事にした。


 コンビニというのは、賞味期限の切れた食べ物を惜しげもなく捨ててしまう。そしてコンビニはゴミ収集業者と個人で契約してゴミを出している場合が多い。

 どうせ捨ててしまう食べ物だ…私が貰っても誰も困らないだろう。

 という、勝手な理論を自分の中に打ち立てていた。

 死なないため死なないため。と、心の中で誰に言うでもない言い訳しながらコンビニへと歩を進める。


 数分後、コンビニの隣にあるゴミ捨て場へたどり着き、「さぁてと……」と意気込みの言葉を呟きながらさっそくゴミの山を漁り始めた。死なないため死なないため。と心の中で言い訳をしながら。

 あまり人に見られたくはない姿だし……早々に立ち去りたいのだが……。

 しかしそこには漁れども漁れども食べ物らしきものは見つからなかった。

「もぅ……」

 せっかく来たのに……。

 私はそこから移動するのも面倒くさくなり、なによりも空腹感より眠気のほうが強くなってきてしまったので臭いけれど屋根があるのでここで朝まで待つ事にした。

 壁があるぶん公園のベンチよりはマシだろう……と自分を納得させる。

 私は少しでも体を温めようと膝を抱えて自分の体どうしを密着させてゴミ捨て場のすみっこで座っていた。


 一時間くらいその状態だっただろうか……私の頭は眠気でボーっとしており意識はうすれかけていたのだが。

 突然「わっ……」という男の人の小さな驚きが聞こえてきた。

 それが、松本さんだった。あの時の驚いた表情の松本さんの顔は今でもしっかり思い出せる。

 だって、驚きの顔をしたあとすぐに、目は汚いものを見るような、冷たいを通り越した冷たい目に変わったから…たまに思い出して、寂しくなる。


 しかしなんというか……思い出してみても、本当にたいした出会いでは無かった。

 白い奇跡は言い過ぎた……むしろゴミ臭い出会い……最悪の印象……

 でも、それから私は松本さんの厄介になっている。最初はお風呂だけ貸してもらう予定だったのだが、それからなんだかなし崩し的に松本さんのアパートに居座ってしまった。

「感謝しても、しきれないなぁ」

 私は声に出して言ってみた。


 今日はクリスマスイブ。今夜は聖夜。

 私は初めての料理で松本さんを喜ばせたい。

 そう思うと、俄然やる気が沸いてくる。

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