表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安奈  作者: はにゃにゃき
1/80

俺の後ろを歩く、世界の裏側の人

 2005年、初冬。

 場所は日本では北国と呼ばれている地域。

 ホテルから出てきた俺達の目に飛び込んできたものは、この冬になって初めての雪だった。

 乾燥した空気ではある。だけど同時に澄んだ空気でもあった。

 少しだけ良い気分になる。火照った自分の体には、これくらいが丁度いい。


「……寒いですね」

 後ろにいる少女が口を開いた。

「……あぁ」

 俺はそう言って両手に息を吹きかける。

 本当は別に寒く無い。

「あの」

 再び少女が口を開く。

「ん?」

「その……つ……ま……んか?」

「……何?」

「手……」

「手?」

「……手、繋ぎませんか?」

「……」

 別に拒否する理由も必要も無い。

 ……無いはずだのだが……

「いや」

 そして、繋ぐ理由も、また無い。

 無いと、自分に言い聞かせる。

「そ……そっか……あ、別に気にしないでくださいね。なんか……すみません」

「……別に」

 少女は何故謝ったのか。俺には理解できない。

 少女は照れくさそうに、差し出しかけていた左手をそっと体の背に引っ込め、うつむきながら喋らなくなった。

 俺はその姿を横目で見ながら自分の手をコートのポケットにつっこみ、もう一度少女のほうをチラっと見たあと、自分が住んでいる安アパートへと向かい歩きだす。


 俺は振り返らないで、少女の足音を耳で確認する。

 しっかりと、一定距離を保ちながら付いてきているようだ。


 これが、俺と安奈の形。

 時には恋人のように体を求め合う。

 しかし時には他人以上に無関心。

 肉親以上に親密ではあるが、同時に地球の裏側に住んでいる、自分とは無関係な人間のような、そんな関係。

 これが、俺と安奈の形。


「……ねぇ、松本さん……」

 ホテルからの帰り道、安奈は突然話しかけてきた。

 どうやら安奈は歩みも止めているようで、足音も聞こえてこない。

 俺は面倒くさがりながらも後ろを振り返り「何?」とだけ聞き返した。

「う」

「何だ?」

「……う」

 安奈はうつむきながら立ち止まっている。

 俺が買い与えてやった薄い安物の黒いコートが風に吹かれてひらひら揺らいでいた。

「置いてくぞ……」

 この台詞は、半分本気だ。

「置いて……かないで」

「じゃあ早く来い。雪が本降りになるだろ」

「……うぅ」

 安奈はうつむき黙ったまま。

 俺は相当面倒くさくなってきている。少しずつイライラもしてきている。そう思う事にしている。

 何故、こいつのために立ち止まらなければならないのか。早く帰りたい。そう思う事にする。

「……置いてくわ」

 ガキじゃあるまいし、一人で帰って来れない事も無いだろう。

 俺は前を向きなおしてゆっくりとまた歩きだした。

「ヒックッ……置いて……グスッ……かないでぇ……」

 ……面倒くさい。

 勝手に泣けばいいだろう。俺には関係無い事。

 俺は歩くスピードを上げた。

「グスッ……グスッ」

 泣き声は、しっかりと俺の後ろから付いてきているようだ。

 その声を確認できて、俺は少しだけ、安心していた。


 これが、俺と安奈の形。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ