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5.

 秋の女王様が、わなわなと震えながら言いました。

「褒美を目当てに来た者を使って、冬の女王様の心を動かそうとは!」 

 夏の女王様が、こぶしを握りしめて言いました。

「わたくしたちをなんと馬鹿にした話でしょう!」 

 春の女王様が、顔を真っ赤にして言いました。

「王様は、民の苦しみも、わたくしたちの気持ちも、まるでわかっておられません!」

 秋の女王様は、唇をかみしめました。

「王様が、民に重い年貢を負担させるものですから、わたくしは、王様を少々懲らしめたいと思っておりました。けれど、王様は、年貢を減らそうとはなさらず、そればかりか、このようなお触れを出されました。わたくしの考えが甘かったのかもしれません。人の心がまったくおわかりにならない王様が、本当にこの国を治めるにふさわしい方か、考えてみる必要がありそうですわ」


 三人の女王様は、それから長い時間じっくりと話し合いをしました。そして、ある計画を立てました。

 それから、その日のうちに塔に使いをやり、冬の女王様にその計画を伝えました。『冬の女王様が賛同されるなら、実行しましょう』という言葉をそえて。

 手紙を受け取った冬の女王様は、その計画を実行することに、少しも迷いませんでした。王様のお触れが出されたことは、風に乗ってすぐに塔にも届き、冬の女王様は、とても心を痛めていたのです。王様が、このような企てで自分の心を動かそうとしたことが、悔しくてたまらず、民の苦しみをわかろうとしなかったことが、とても悲しかったのです。

 

 冬の女王様から了承の返事を受け取った三人の女王様は、翌朝早く、そろって王様のところに出かけていきました。

 秋の女王様が、代表して王様に言いました。

「冬の女王様が、そろそろ塔を出るとおっしゃっています」

「なんと! まことか?」

 王様は驚き、けれど半信半疑の様子でした。

「はい。ただし、ひとつ条件がございます」

 王様の顔がたちまち曇りました。

「年貢を減らせという話か? そのことならば……」

「いいえ、そうではありません。王様は、それは無理だと、はっきりおっしゃいました。そのお心に変わりはないのでございましょう?」

 秋の女王様は、挑むような目で王様を見つめました。

「そ、そうだ」

 王様の返事に、三人の女王様は、顔を見合わせて、計画を実行することを目顔で確認し合いました。


 秋の女王様は、言葉を続けます。

「冬の女王様は、王様が、冬はなくてもよいとおっしゃったことに深く傷ついています。王様には、そのことをきちんと謝っていただきたいのです」

「そのことなら、塔に使いを送り、すでに謝罪しておる」

「ですが、冬の女王様は、手紙では、王様の本当のお気持ちかどうかわからないと申しております。直接王様にお会いして謝っていただければ、信用してもよいと」

「わたしに、塔に出向けということか?」

「はい」

 王様は、しばし思案しました。自分が塔に出向くだけで冬の女王が塔から出るというのなら、良い話ではないか。昨日お触れを出したが、知恵者が良い知恵を持って来るまでには、まだ時間がかかるに違いない。それに、褒美を取らす必要もなくなるではないか!

「よし、それなら、わたし自ら塔に参ろう」

 うれしさを隠せず、笑顔で答える王様に、秋の女王様は、そ知らぬ顔で言葉を続けました。

「それでは、塔のある丘のふもとからは、王様おひとりで塔に向かってくださいませ」

「なんと! わたしひとりでか?」

 王様の笑顔が、怪訝の表情に変わりました。

「はい。冬の女王様は、王様がお供を連れて大勢で来られると、力ずくで塔から出そうとされるのではと心配しているのです」

「そんなことはするはずがない。自らの意思で塔から出るというのが、掟ではないか」

「そうなのですが、王様は、すでに冬の女王様の信用をなくすようなことをおっしゃっていますので」

「そ、それは……」

 王様は、返す言葉がありません。秋の女王様は、かまわず言葉を続けました。

「丘のふもとから塔までは、十分もかかりませんわ。それでも、王様が嫌だとおっしゃるなら、わたくしたちはどうすることも……」

「わかったわかった。冬の女王がそれで安心するのなら、わたしひとりで塔を訪れよう」


 それから間もなく、準備を整えた王様は、馬車に乗って城を出発しました。

 やがて丘のふもとに着くと、馬車を降り、王様はひとりで、丘の小道を塔へと登っていきました。


 王様が、丘を登りはじめて、しばらくたったときのことです。

 突然、強い風が巻き起こり、雪が激しく降り始めました。おだやかな冬の日が、たちまちのうちに、前も見えないほどの激しい吹雪に一変したのです。

 ゴーゴーと吹き荒れる風と雪の中、王様は、動くこともできず、その場に立っているのがやっとでした。立ち尽くす王様の上に、雪は容赦なく降り積もり、足元を埋めていきます。冷たい風と雪が、外套の隙間から入り込み、王様の体はどんどん冷えていきました。

「だ、だれか、助けてくれ……」

 王様の声は、吹雪にかき消され誰のもとにも届きません。

 それからどれくらいたったでしょうか。とうとう王様は、吹雪のなか、降り積もった雪の上にばたりと倒れこみ、動かなくなってしまいました。


 そして、王様は、それ以来城には戻ってきませんでした。


 王様がいなくなったあと、代わりに四季の女王様たちが国を治めることになりました。ひとりが塔にこもって季節を司り、残りの三人で国の政を行ったのです。

 女王様たちは、年貢の負担を減らし、集まった年貢を上手く使って、国を平等に治めました。人々の生活は豊かさを取り戻し、そのおかげで、畑を整備し、美しい森を守ることができるようになりました。

 こうして、おだやかな日常を送るなかで、人々は、いつしか、いなくなった王様のことは忘れてしまいました。

 



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