表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

4.

「な、何だね、願いとは?」

 秋の女王様は、王様の目をまっすぐに見つめて言いました。

「この国の民の多くが、重い年貢の負担に苦しんでいます。王様には、その年貢を軽くしていただきたいのです」

「な、なんと! 年貢を減らせと言うのか!」

「はい」

「しかし、年貢は、国を治めるのに必要なものだ」

「それは、承知しています。けれど、負担が重過ぎて、民の生活が苦しくなっているのです。もう少し軽くすることはできないのでしょうか」

 王様は、少しの間考えました。けれど、城に集まる年貢の量が、去年より少なくなることを想像しただけで、嫌な気分になってくるのでした。

「それではこうしよう。今年は年貢を増やさず、去年と同じにするのだ」

「それでは、民の生活は苦しいままですわ」

 秋の女王様が言い返すと、

「それ以上は無理だ」

 王様は、すぐさまきっぱりと断りました。

 今度は、夏の女王様が言い返しました。

「けれど、うわさでは、お城には十分な蓄えがあるとか。少しぐらい年貢を減らしてもよいのではないですか」

「そ、それは、うわさにすぎぬ」

 春の女王様も言い返しました。

「けれど、民が困っているのです。年貢を減らして、やりくりされてはいかがでしょう」

「そ、それは、難しい」

 そんな王様の様子に、秋の女王様は、あきれてしまいました。

「それでは、わたくしたちも、冬の女王様に塔を出るよう伝えることはできません」

「な、なんだと?」

「わたくしたちの願いを聞いてくださらないのなら、こちらも、王様の頼みを聞き入れることはできないということです」

 きっぱり断る秋の女王様に、王様は顔を真っ赤にして怒り出しました。

「もうよい! おまえたちには頼まぬ! このまま冬を続けるがよい! 冬が続けば、作物を育てられず、民はもっと困ることになろう。おまえたちは、それでよいと言うのだな!」

 王様はそう言い捨てて、さっさと帰って行ってしまいました。


 王様が出て行くと、三人の女王様は、ため息をつきました。

「上手くいきませんでしたね」

 と、春の女王様。

「なんと困った王様でしょう」

 と、秋の女王様。

「王様には腹立たしい限りですわ。ですが、このまま冬を続けるわけにもいきません。どういたしましょうか」

 と、夏の女王様。

 秋の女王様が、考え考え言いました。

「そうですねえ、もう少しだけ、様子を見てはいかがでしょう。ああおっしゃっていましたが、王様とて、このまま冬が続けばよいと、本気で思っているはずがありません。一刻も早く、冬を終わらせたいはずです。冷静になって、わたくしたちに頼むしかないとわかれば、思い直してくださらないとも限りませんわ」

「そうですね、まだ時間はありますわ。あきらめずに、待ってみましょう」

 と、春の女王様。夏の女王様も、

「ええ、あの王様のことですもの、年貢が取れないくらいなら減らすほうがましと、考え直すかもしれません」


 いっぽう、王様です。

 王様はもちろん、このまま冬が続いて作物を育てることができず、年貢を取れなくなるということは、絶対に避けたいと考えていました。

 年貢を取れないよりは、年貢を減らすほうがましだとは思うのですが、やはり、年貢が減ると考えるだけで、嫌でたまらなくなるのです。それに、女王様たちにああ言った手前、今さら年貢を減らすとは、言いたくありませんでした。

 王様は、女王様たちに頼らず、冬の女王様に塔を出てもらう方法はないか考えました。女王が塔を出た翌日には、必ず次の女王が塔に入らなければならないという掟があるため、冬の女王様さえ塔から出れば、次の日には、いやでも春の女王様が塔に入るはずです。


 王様は、塔に使いを送り続けました。

 使いに手紙を託し、王様は、冬の女王様をなだめたり、すかしたり、はたまたお世辞を使ったりして、塔から早く出てもらうよう頼みました。冬が続けば民が困ると訴えて、塔から出るよう頼んだりもしました。冬の女王様に、冬はなくてもよいと言ったことを詫びてみせもしました。

 ありとあらゆる言葉を尽くし、塔から出るよう頼み続けましたが、いつも返ってくるのは、『もう少しお待ちください』という言葉だけでした。


 王様のイライラは、日ごと募っていきました。

 なぜ、冬の女王は、塔から出ない! いったいどうしたら、冬の女王は、塔から出てくるのだ! 誰か、良い方法を教えてくれ!

 そこで王様は、はたと思いつきました。この国には、長年の経験をつんだ知恵者がいるはずです。その者たちの知恵を借りよう。そうだ、褒美を出せばよい。褒美につられて知恵者が集まり、そのうちの誰かが、冬の女王を塔から出してくれるに違いない!


 次の日、冬の女王様が塔に入ってから三ヶ月と十日目、王様は国中にお触れを出しました。

『冬の女王を塔から出すことができた者には、褒美を取らせる』と。

 お触れが出されたことは、すぐに女王様たちの耳にも入りました。そして、このお触れが、女王様たちの怒りに火をつけたのです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ