4.
「な、何だね、願いとは?」
秋の女王様は、王様の目をまっすぐに見つめて言いました。
「この国の民の多くが、重い年貢の負担に苦しんでいます。王様には、その年貢を軽くしていただきたいのです」
「な、なんと! 年貢を減らせと言うのか!」
「はい」
「しかし、年貢は、国を治めるのに必要なものだ」
「それは、承知しています。けれど、負担が重過ぎて、民の生活が苦しくなっているのです。もう少し軽くすることはできないのでしょうか」
王様は、少しの間考えました。けれど、城に集まる年貢の量が、去年より少なくなることを想像しただけで、嫌な気分になってくるのでした。
「それではこうしよう。今年は年貢を増やさず、去年と同じにするのだ」
「それでは、民の生活は苦しいままですわ」
秋の女王様が言い返すと、
「それ以上は無理だ」
王様は、すぐさまきっぱりと断りました。
今度は、夏の女王様が言い返しました。
「けれど、うわさでは、お城には十分な蓄えがあるとか。少しぐらい年貢を減らしてもよいのではないですか」
「そ、それは、うわさにすぎぬ」
春の女王様も言い返しました。
「けれど、民が困っているのです。年貢を減らして、やりくりされてはいかがでしょう」
「そ、それは、難しい」
そんな王様の様子に、秋の女王様は、あきれてしまいました。
「それでは、わたくしたちも、冬の女王様に塔を出るよう伝えることはできません」
「な、なんだと?」
「わたくしたちの願いを聞いてくださらないのなら、こちらも、王様の頼みを聞き入れることはできないということです」
きっぱり断る秋の女王様に、王様は顔を真っ赤にして怒り出しました。
「もうよい! おまえたちには頼まぬ! このまま冬を続けるがよい! 冬が続けば、作物を育てられず、民はもっと困ることになろう。おまえたちは、それでよいと言うのだな!」
王様はそう言い捨てて、さっさと帰って行ってしまいました。
王様が出て行くと、三人の女王様は、ため息をつきました。
「上手くいきませんでしたね」
と、春の女王様。
「なんと困った王様でしょう」
と、秋の女王様。
「王様には腹立たしい限りですわ。ですが、このまま冬を続けるわけにもいきません。どういたしましょうか」
と、夏の女王様。
秋の女王様が、考え考え言いました。
「そうですねえ、もう少しだけ、様子を見てはいかがでしょう。ああおっしゃっていましたが、王様とて、このまま冬が続けばよいと、本気で思っているはずがありません。一刻も早く、冬を終わらせたいはずです。冷静になって、わたくしたちに頼むしかないとわかれば、思い直してくださらないとも限りませんわ」
「そうですね、まだ時間はありますわ。あきらめずに、待ってみましょう」
と、春の女王様。夏の女王様も、
「ええ、あの王様のことですもの、年貢が取れないくらいなら減らすほうがましと、考え直すかもしれません」
いっぽう、王様です。
王様はもちろん、このまま冬が続いて作物を育てることができず、年貢を取れなくなるということは、絶対に避けたいと考えていました。
年貢を取れないよりは、年貢を減らすほうがましだとは思うのですが、やはり、年貢が減ると考えるだけで、嫌でたまらなくなるのです。それに、女王様たちにああ言った手前、今さら年貢を減らすとは、言いたくありませんでした。
王様は、女王様たちに頼らず、冬の女王様に塔を出てもらう方法はないか考えました。女王が塔を出た翌日には、必ず次の女王が塔に入らなければならないという掟があるため、冬の女王様さえ塔から出れば、次の日には、いやでも春の女王様が塔に入るはずです。
王様は、塔に使いを送り続けました。
使いに手紙を託し、王様は、冬の女王様をなだめたり、すかしたり、はたまたお世辞を使ったりして、塔から早く出てもらうよう頼みました。冬が続けば民が困ると訴えて、塔から出るよう頼んだりもしました。冬の女王様に、冬はなくてもよいと言ったことを詫びてみせもしました。
ありとあらゆる言葉を尽くし、塔から出るよう頼み続けましたが、いつも返ってくるのは、『もう少しお待ちください』という言葉だけでした。
王様のイライラは、日ごと募っていきました。
なぜ、冬の女王は、塔から出ない! いったいどうしたら、冬の女王は、塔から出てくるのだ! 誰か、良い方法を教えてくれ!
そこで王様は、はたと思いつきました。この国には、長年の経験をつんだ知恵者がいるはずです。その者たちの知恵を借りよう。そうだ、褒美を出せばよい。褒美につられて知恵者が集まり、そのうちの誰かが、冬の女王を塔から出してくれるに違いない!
次の日、冬の女王様が塔に入ってから三ヶ月と十日目、王様は国中にお触れを出しました。
『冬の女王を塔から出すことができた者には、褒美を取らせる』と。
お触れが出されたことは、すぐに女王様たちの耳にも入りました。そして、このお触れが、女王様たちの怒りに火をつけたのです。