3.
次の日、まだ暗いうちに、冬の女王様は、塔に向けて出発し、朝日が昇る前に塔に入りました。
そしてこの日、木枯らしがぴゅうぴゅうと吹きすさび、冬の訪れを迎えたのでした。
それから一ヶ月。大地は一面に雪で覆われていました。
王様は、冬の女王様が塔からもどるのを今か今かと待っていましたが、一ヶ月と一日を過ぎ、二日を過ぎ、三日を過ぎても、いっこうにもどる気配がありません。
王様は、何度も塔に使いをやり、冬の女王様に塔を出るよう伝えました。けれども、冬の女王様からは、『まだ、冬を終わらせるときではありません』と、返事がくるばかりでした。
しびれを切らして、王様は、春の女王様、夏の女王様、秋の女王様のところにやってきました。
「冬の女王には、一ヶ月で春の女王と交替するように言ったであろう。なのに、まだ塔を出ぬ。おまえたちから、早く塔を出るよう、冬の女王に伝えるのだ」
秋の女王様は、そ知らぬふりで言いました。
「冬の女王様は、まだ冬を終わらせるときではないと考えているのでしょう」
夏の女王様も、そ知らぬふりで言いました。
「まだ大地も生き物も十分に休んではいません。それに、雪もまだまだ足りないと考えているのでしょう」
春の女王様も、そ知らぬふりで言いました。
「冬の女王様がそう考えているのなら、わたくしたちは何もできませんわ」
女王様たちの話を聞いて、王様は、きりりと唇をかみました。けれども、この様子では、女王様たちにこれ以上何か言っても無駄のようでした。それに、四季を司るのは、女王様たちにしかできないことです。ここで、これ以上食い下がり女王様たちを怒らせては、作物の成長のために大事な春と夏と秋を、きちんと司ってくれるのか、わかったものではありません。
しかたがありません。王様は、今回は、冬を短くするのをあきらめることにしました。二ヵ月後に冬の女王がもどって、いつもの年と同じように春、夏、秋を廻らせる。それで、せめていつもと同じような収穫を確保しよう。そう考えて、あきらめることにしたのです。
冬の女王様が、塔にこもって三ヶ月がたちました。
この日をまだかまだかと待っていた王様でしたが、三ヶ月が過ぎ、三ヶ月と一日が過ぎ、二日が過ぎても、冬の女王様は、塔からもどってきません。
王様は、すぐさま塔に使いをやり、冬の女王様に、すぐに塔を出るよう伝えました。けれど、冬の女王様からは、『冬を終わらせるまで、もう少しお待ちください』と、返事がきただけでした。
三ヶ月と三日目にも、三ヶ月と四日目にも、王様は塔に使いをやりましたが、冬の女王様からは、もう少しお待ちくださいという、返事がくるばかりです。
三ヶ月と五日目、とうとう王様は、春の女王様、夏の女王様、秋の女王様のところにやってきました。
「三ヶ月たったが、冬の女王は、まだ塔から出ぬ。おまえたちから、冬の女王に、すぐに塔から出るよう伝えるのだ」
秋の女王様は、そ知らぬ顔で言いました。
「冬の女王様が、まだ塔から出ないのは、何か事情があるのでしょう。もう少しということでしたら、待ってみられたらいかがでしょう」
「しかし、これ以上冬が長引けば、今年の収穫が減ってしまうかもしれないのだ。もう、一刻も待てぬ」
「そうおっしゃられても、わたくしたちとて、冬の女王様を説得するのは難しいことですわ」
秋の女王様が言うと、春の女王様と夏の女王様もうなずきました。
その様子を見ていた王様は、女王様たちひとりひとりに目をやって言いました。
「もしかして、おまえたちは、わたしに仕返しをしているのか?」
秋の女王様は、またそ知らぬ顔で言いました。
「何のことでしょう?」
「わたしが、冬の女王に一ヶ月で塔を出るように言ったことを、おまえたちは快く思っていないのだ。だから、おまえたちは、申し合わせて冬を長引かせ、わたしを困らせようとしているのではないか?」
秋の女王様は、それを聞くと、王様をまっすぐに見すえて言いました。
「そうお思いなら、わたくしたちの言うことに、もう少し耳を傾けてくださってもよかったのではありませんか!」
春の女王様と夏の女王様も、真剣な眼差しで、王様を見つめます。
王様は、しばらく黙り込んでいましたが、やがてふうっと息を吐き、口を開きました。
「わかった。これからは、もう少しきちんとおまえたちの話を聞くようにしよう。だから、今回のことは許してくれ」
三人の女王様は、顔を見合わせてうなずき合いました。
「わかりました」
秋の女王様がこたえると、王様はほっと胸をなでおろしました。
「それでは、おまえたちから冬の女王に、すぐに塔から出るように伝えてくれ」
三人の女王様は、もう一度顔を見合わせました。そして、ひとつうなずくと、秋の女王様が、王様に向かって言いました。
「わたくしたちから、王様にお願いがございます。それを聞いてくださるなら、冬の女王様に、塔を出るよう伝えましょう」