2.
次の日、秋の女王様が塔からもどってきました。こうして季節の交替の一日だけ、四人の女王様が顔をそろえます。
三人の女王様から話を聞いた秋の女王様は、とても驚き、とても怒り、とても悲しみました。
「王様は、なんて酷いことをおっしゃるのでしょう! それに、王様は何もわかってらっしゃらないわ。冬があるからこそ、この地に豊かな実りがあるというのに」
「そのことは、わたくしたちも王様に申し上げたのです。けれど、きちんとわかってはくださいませんでした」
夏の女王様が悔しそうに言うと、秋の女王様も眉をひそめました。
「そうなのですね。困った王様ですわ。さて、それではどういたしましょう?」
夏の女王様が、きっぱりと言いました。
「やはり、国の民のためにも、冬の女王様には、いつものように三ヶ月間塔にこもってもらうのがよいと思いますわ」
春の女王様も、うなずいて、
「わたくしも、それがよいと思いますわ」
冬の女王様も、
「わたくしも、そうしたいと思っております」
秋の女王様は、
「もちろん、わたくしもそうすべきだと思います。塔に入ってしまえば、王様とて手出しはできませんもの。冬の女王様は、王様のおっしゃることは気にせず、きちんと最後まで冬を司るのがよいと思いますわ」
「はい」
冬の女王様は、しっかりとうなずきました。
それから秋の女王様は、少し考えてから言いました。
「けれど、それだけでは物足りない気もいたします」
「どういうことでしょう?」
と、夏の女王様。
「実は、塔にいるとき、風に乗って、人々のこんな嘆きが聞こえてきました。せっかくたくさん実ったのに、多くを年貢に取られてしまう。年貢の負担が年々きびしくなって生活が苦しい、と。
ここのところ、年貢の量が多すぎて、国の民が困っているのです。その上、王様は冬を短くしろとまでおっしゃって。この際です、王様を少し懲らしめて、反省していただくというのはどうでしょう」
「それは、良い考えだと思いますわ!」
と、夏の女王様。
「王様には、ぜひ、年貢についてお考えを改めていただきましょう!」
と、春の女王様。
「ええ、そうしましょう!」
と、冬の女王様。
秋の女王様は、三人の女王様を見まわして言いました。
「それで、思いついたのですけれど、王様を懲らしめるために、王様の命令とは反対のことをする、というのはどうでしょう?」
「反対のこと?」
口々にたずねる女王様たちに、秋の女王様は、いたずらっぽく笑って答えました。
「王様の望みは、冬を短くすることです。ですから、反対に冬をいつもより長くするのです。冬の女王様が、三ヶ月すぎても塔からもどらなければ、困った王様がわたくしたちに泣きついてくるかもしれません。そこで、王様を助けるかわりに、年貢について考え直していただくのです」
それを聞いて、冬の女王様が、ちょっと眉をひそめました。
「ですが、冬を長くすれば、作物の成長が遅くなり、人々が困ることになりませんか?」
秋の女王様は、冬の女王様を見てにっこりしました。
「それは大丈夫ですよ。冬が多少長くなるくらいなら、春の女王様と夏の女王様が上手くやれば、十分に成長の遅れをとりもどすことができます」
「まかせてください」
春の女王様と夏の女王様が、冬の女王様ににっこりと笑いかけると、冬の女王様も安心したようでした。
「それでは、こうしましょう」
秋の女王様は、三人の女王様に手はずを説明しました。
「王様は、一ヶ月をすぎれば、色々な手を使って、冬の女王様を塔から出そうとするでしょう。それでも、冬の女王様は、決して塔から出ないようにしてください。三ヶ月を過ぎても、わたくしたちが使いを送るまでは塔に居続けてくださいね」
「はい」
冬の女王様は、しっかりとうなずきました。
「わたくしと、夏の女王様、春の女王様は、王様の様子をここで見極めましょう。冬の女王様が塔からもどらなければ、王様はわたくしたちのところに来るはずです。そうしたら、王様の出方を見て、年貢を減らすよう交渉するのです」
「上手くいくとよいのですけど」
春の女王様が心配そうに言うと、秋の女王様は、考え考え言いました。
「できるだけのことはしてみましょう。それでも、もし、王様がどうしても考え直してくださらないようなら、わたくしたちも、どこかであきらめる必要があるでしょうね。冬を長引かせると言っても、いつまでもというわけにはいきませんもの」
「そうですね。やれるだけのことをしてみましょう」
女王様たちは口々にそう言って、うなずきあいました。