1.
この国には、毎年、春・夏・秋・冬の四つの季節が廻ってきます。
雪解けとともに春が目覚めると、さまざまな生き物が動き出し、大地には新しい芽が吹き出します。春から夏へと移り行くなかで、それらはぐんぐんと成長し、青々とした枝葉を広げ、色とりどりの花を咲かせます。そして実を結び、秋には、美しい色づきとともに収穫の時期を迎えます。こうして、たくさんの実りを産み出した大地と生き物たちは、再びの冬の訪れとともに、雪の下で眠りにつきます。
こうした季節の廻りが、この国に、豊かさをもたらしているのでした。
この四つの季節は、四人の女王様によって、司られていました。
春を司る春の女王様、夏を司る夏の女王様、秋を司る秋の女王様、そして冬を司る冬の女王様。彼女たちは、それぞれ順番に、一定の期間、塔にこもります。彼女たちが、塔にこもることで、それぞれの季節が訪れ、四季が廻っていくのです。
四人の女王様は、とても仲がよく、お互いに助け合って暮らしていました。一番年上の秋の女王様、二番目の夏の女王様、三番目の春の女王様、そして一番若い冬の女王様。それぞれ歳は離れていましたが、この国に、美しく豊かな季節を廻らせたいという、同じ思いを持っていたのです。
ところが、彼女たちには、ひとつ心配なことがありました。
それは、この国の王様が、年を追うごとに欲深くなっていくことでした。
この国の大地は、豊かな恵みをもたらします。国の民には、その恵みの中から、いくらかずつ年貢を納めてもらうことになっていました。その年貢の量を、王様は毎年少しずつ増やしていたのです。
最初のころ、王様は、納められる年貢の量に満足していました。けれども、だんだんと、年貢の量が前の年より少なくなることが嫌でたまらなくなり、去年より多く、去年より多く、と考えるようになっていきました。そのため、たとえ収穫が減っても、毎年年貢を増やしていったのです。
けれど、年貢の量を増やすことも、そろそろ限界になっていました。民の不満が王様の耳にも届いています。これ以上年貢を増やせば、不満が爆発することにもなりかねません。
それでは、どうやったら、去年より多くの年貢を集められるのか? 収穫の量を増やすことができればよいのだが……
そして、王様は、はたと思いつきました。そうだ、冬をなくそう! 冬がなければ――春と夏と秋がもっと長ければ、もっともっと収穫を増やすことができる、王様はそう考えたのでした。
秋も深まったある日のことです。王様が、冬の女王様、春の女王様、夏の女王様のところにやってきました。秋の女王様は、塔にこもっています。
「冬の女王よ、もうすぐ交替のときだね」
「はい、明日秋の女王様がもどりますので、あさってには、わたくしが塔に向かいますわ」
「そのことだが、おまえは塔に行かなくてもよい。秋の女王がもどったら、次は春の女王が塔にゆくのだ」
冬の女王様は、耳を疑いました。
「ど、どういうことでしょう。それでは、冬がなくなってしまいますわ」
冬の女王様は、うろたえて聞き返しました。春の女王様と夏の女王様も、驚いて王様を見つめています。
「冬はなくてもよいのだ。冬の凍てつく大地は、何も産み出さない」
「そ、そんな……」
冬の女王様は言葉を失い、目からぽろぽろと涙があふれてきました。
春の女王様が、王様をひたと見すえて言いました。
「秋にたくさんの実りをもたらした大地は、冬の季節、雪の下でゆっくりと休むのです。だからこそ、春になればまた、たくさんの新しい命を産み出すことができるのですわ」
夏の女王様も、王様をひたと見すえて言いました。
「雪に覆われる冬は、水をたくわえるのに大切な季節です。豊富な水がなければ、夏の日照りを乗り切ることはできないでしょう」
王様は、しばらく考えたあと、口を開きました。
「しかたがない。冬の女王よ、おまえが塔に行くがよい。ただし、一ヶ月でもどり、春の女王と交替するのだ」
「そんな、それでは十分に……」
横から言い返そうとする夏の女王様を、王様はさえぎりました。
「それで十分だ。一刻も早く春を迎え、畑に種をまく準備を始めるのだ。そうすることで、わが国はもっと豊かになれるのだよ」
それだけ言うと、王様はさっさと出て行ってしまいました。
はらはらと涙をこぼし続ける冬の女王様。その肩をやさしく抱いて、夏の女王様が言いました。
「大丈夫よ、王様の言う通りにはさせないわ」
春の女王様も、冬の女王様の手をとって言いました。
「そうですとも。明日、秋の女王様がもどったら、どうしたらいいか、みんなで話合いましょう」
冬の女王様は、涙をぬぐい、こくりとうなずきました。