~ 手紙 ~
毎日 暑い日が続いていますが
お変わりありませんか ?
貴方に 毎年 送っていた 蓮の花ですが
今年は 送る事が 出来そうにもないのです
楽しみにされていたのに … 残念です …
夏休みの朝
明け方前に目覚めてしまった僕は
家のポストに差出人不明の手紙が届いているのを見つけた
僕は 手紙を読んで ハッとした
大急ぎで家のすぐ近くにある 蓮池へと走った
毎年 この季節になると 大きな池に 絨毯のようにビッシリと 咲く 蓮の花
僕は 毎年 この時季に蓮が咲くのを 楽しみにしているんだ
とても不思議な花で
花が開くと 実をつけているんだ
泥池が汚れている程 大きくて美しい花が咲くんだ !
息をきらせて 走って 見えてきた池には
手紙の通り
蓮の花は 一つも咲いていなかった …
「どうして … 何で? 何で咲かないの… 」
僕は 悲しくて …
だけど 池を離れたくなくて
地面に座って 蓮の無い 池を見つめていた
「いつもは … いつもは 池の端から端迄 咲いていたのに … 僕 … 楽しみにしていたんだよ 本当だよ!」
誰に 話す訳でも無く 少年は 池に そう言った
其所に その時 在るべきものが無い …
純粋な 少年の心は 涙となり
一粒の涙が 少年の 頬を伝った
大きな池は 少年の涙を感じたのか
端々から キラキラ キラキラ と 輝き始めた
軈て その輝きは 大きな池の中心に集まり
集まった輝きは 池の中心から 放射線状に拡がり
池の端々にまで届き 虹を描いた …
幻想的で 不思議な その光景に
少年は立ち上がり 池の側へと 進んだ
私 ノ タメ ニ 泣イテクレルノ 坊ヤ …
少年の耳に 清み渡る 優しい声が届いた …
「虹が 喋った … 」
少年 は 驚いて目を擦り 頬をつねり 夢ではない事を確かめた
「フフフ ! 可愛イ 坊ヤダコト … 坊ヤ コノ池ガ好キデシタカ?」
虹から 聞こえる清らかな声が 少年に聞いた
「うん ! 僕 この池に咲く 蓮の花が大好きで 楽しみにしていたんだ ! でも 今年は咲いていない … 」
少年 は 虹に向かい 悲しそうに 言った
蓮ガ見タイノ 坊ヤ ?
虹 が 少年に 聞いた
「うん! 僕 見たいよ!」
少年 は 瞳を輝かせ 池の端から 身を乗り出し 応えた …
善イデショウ … 今日 坊ヤニ 出逢エタノデスカラ …最後ニ … 私 ノ … コノ蓮池 ニ 幻影ヲ浮カベマショウ …
虹 は 更に 輝きを増し
池からも 太陽からも 周りに繁る樹木や草花達 そして 大地からも
小さな光りの 泡粒を集めた
小さな 泡粒達は 其の 一粒 一粒 が 輝き
虹 に 吸い寄せられるように 空中を ふわりふわり と 漂うように 移動した
「うわぁ~ !!」
少年は その美しさに 驚き 声を上げ 嬉しそうに 笑顔を見せた
ポンッ ♪ ポン♪ ポン♪
楽し気な 音が 彼方此方から 聞こえてきた
高い音 低い音 長い音 短い音 …
其々 違う音が 幾重にも重なり
軈て 其は メロディー を奏でた
奏でられたメロディーと伴に
池 に 一つ 又 一つ と 蓮の花が 甦っていった …