0ー3:Es geschieht, dass das herkömmliche Leben gestürzt wird
……深夜1時。
バイト先の事務所で冷たくなった弁当を食べ、帰りに寝酒のビールと乾きものを買ってアパートに帰る。
アパートの部屋の鍵を開けると、玄関に何通かの封筒が落ちていた。宛名はどれも以前面接を受けた会社……これは採用試験の結果通知だ。
スーツを脱いでベッドに放り、ネクタイを緩めて床に腰を下ろし、取り敢えずビールを開け一気にあおる……ふう。生き返った。漸く一息ついたぜ。
さて……運命の時間だぜ。
封筒を手に取り、暫く見つめる。やっぱり緊張するな。
まあ、封筒を見つめてばかりいてもしょうがない……開けるか。
覚悟を決めて封を切り、中の紙を見る。
……1社目。
『誠に残念ですが、今回は採用を見送らせていただきます』
……2社目!
『この度はご希望にお答えできませんでした』
……3社目!!
『厳正なる選考の結果、貴殿を採用いたすことを内定しましたのでご連絡いたします』
……
……
……ん?
……んんんっ?!
『採用内定』……だと? マジか!?
俺はもう一回通知文書を読み直した。確かに『採用』を『内定』したとある。
俺はビールを一気に飲み干し、他の不採用の通知を丸めてゴミ箱に投げつけた。
「いいぃやったぁぁっ!」
独り暮らしの部屋でガッツポーズ。恥ずかしくなんかないぞ! 内定とは言え、採用決定には違いない。これが嬉しくないわけがない。
30社近く面接を受けて、今まで全くダメだったんだ。やっと、やっと内定が貰えた……! 漸くフリーター生活から脱出できる。
時計を見ると、もう午前2時を回っていた。
寝よう。明日はやることが沢山ある。
俺は明かりを消すと、ワイシャツのままベッドに倒れこんだ。安心したせいか、それともイッキ飲みしたビールが効いたのか、急に眠気がする。
……ん?
頬に何か固いものが当たった。スーツのポケットに何か入っているようだ。手探りで取り出したそれは、滴型の石がはめられたペンダント。夕方、怪しい占い師の爺さんに押し付けられたやつだ……ポケットにいれたままになっていたのか。
『近い将来、今までの人生がひっくり返るような事が起こる』
爺さんの言葉が脳裏をよぎる……あれは何だったんだろうな。まあ、内定取れたんだ。気にすることもないだろ。
睡魔に耐えられなくなった俺は、ペンダントをスラックスのポケットに入れようとした。
……
……
……?
今、少しグラって揺れなかったか?
……
一回小さく揺れたあと、低い地鳴りと共に部屋が小刻みに震えはじめる。
……地震……!?
揺れは徐々に強くなり、サッシや家具……アパート全体が軋むような音を立てている。俺は上体を起こし、揺れる蛍光灯を見上げた。結構強い揺れ……こんなのは初めてだ。
……いや、初めてか? 前にも一度……
心なしか地鳴りが大きくなった気が……そう思った瞬間、突き上げるような凄まじい縦揺れが体を襲い、俺はベッドから転げ落ちた!
窓のサッシが歪み、窓ガラスが割れ、テレビが揺れに弾かれるように飛ばされる。
なんなんだ……なんだってんだよ! 一体何が……!
激しい揺れに翻弄され、体を動かすこともできない。腕で頭を抱えながら、俺は揺れが収まるのを待った。しかし、揺れは収まる気配を見せない。
恐怖と混乱で頭が真っ白になる。
……?
震える闇のなか、俺は仄かな光を感じた。ポケットに入れるつもりで握っていたペンダントが……光っている?
これは……一体?
その時、さらに激しい縦揺れが襲う!
雷が間近に落ちたような轟音。木が引き裂かれる音。地の底から沸き上がる地鳴り。何かが砕ける音。俺自身の悲鳴。
それらがいっぺんに俺を包み……俺の意識は途切れた。