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0ー1:Auf der Erde was tat ich?

 「戦列を立て直せ! 敵は多くないぞ! 馬車には近付けるな!」


 ルーファスはサーベルを振るい黒装束の襲撃者と斬り結びながら叫ぶ。


 貧民窟(スラム)における銀狼団の帝都大火の企みを阻止し、放火の実行部隊を捕らえて大隊の駐留する居留地に帰還を始めた矢先、ルーファスの混成中隊は正体不明の武装集団の襲撃を受けた。


 暗闇から何の前触れもなく突然襲い掛かってきた黒服の集団に騎士団は一時的に混乱したが、直ぐ様体勢を立て直す。


 銀狼団による放火部隊の奪還に備えて周囲を警戒していた事が功を奏したのだ。


 「くそっ! にしても何者だ!? この連中は?!」


 襲撃の直前まで全く気配が無かった。姿を目にしながらも存在感が希薄で、無言かつ無表情で斬り掛かってくる。感じるものは突き刺さるような敵意のみ。


 「気味悪いんだよ! お前ら!」


 ルーファスは強引に黒装束の男を突き放すと、袈裟懸けに斬り捨てた。その瞬間、斬られた男は煙のように消え失せる。


 「……!」


 闇に紛れて逃げた訳ではない。体が陽に溶けて消える朝靄のように消えたのだ。


 「幽霊(ゲシュペンスト)……って訳じゃなさそうだが、何だってんだ? くそっ!」


 斬った手応えはあった。それが余計に不気味だ。


 「隊長! こいつら……!」


 「情けねぇ声出すな! 斬れるなら倒せる! それで十分だろうが! 気合い負けすると呑まれるぞ!」


 悲鳴のような声をあげる部下を、ルーファスは大声で叱咤した。


 「くそっ! 何が目的だ!」


 苛立ち混じりに吐き捨て、ルーファスは目の前に躍り出た黒装束を一太刀で斬り捨てる。





 「……! こいつら、やはりあの時長老を暗殺しようとした奴等と同じ連中か!」


 目の前に振り下ろされたサーベルを受け流し、体勢を崩した黒装束を逆袈裟に斬り捨て、ウィルギルは舌打ちした。


 斬られた黒装束は闇に溶けるように消え、さらに二人が迫ってくる。


 「……何人居るのだ。これではキリがない」


 同胞の狼人や騎士団の兵士達も奮戦していて状況は有利に見える。


 黒装束一人一人の腕前も、狼人や戦い慣れた騎士団に比べれば大したことがない。集団で襲ってくるため厄介なのは変わり無いが。


 「しかし、妙な……はっ!」


 一人の黒装束に拳を喰らわせて怯ませ、もう一人の喉元を突く。そいつが霧と消える前にサーベルを反し、先程の黒装束のサーベルを弾いて額から斬り下ろす。


 ウィルギルはサーベルを振るって霧となった黒装束を払いながら周囲に目を走らせた。


 黒装束達はただひたすらこちらに斬り掛かって来ている。一人が斬られても、絶え間無く次が来る。こちらが疲弊するのを待っているようにも見えるが、ウィルギルには彼等がこちらの注意を自分達に引き付けるようとしているように見えた。


 その狙いは……?


 その時、ウィルギルの耳と鼻は、濃い血の臭いと続けざまに響く悲鳴を捕らえた。


 「っ!? まさか!」


 ハッと息を飲んだウィルギルは隊列の前方……銀狼団の火付け部隊が拘束されている馬車に走る。


 馬車に近付いたウィルギルは、あまりの事に言葉を失った。馬車には護衛と監視の兵士が2分隊付いていた。しかし今や彼等は物言わぬ骸となって血に沈んでいる。


 倒れた兵士の中にはウィルギルの見知った顔があった。馬車の護衛には、彼と共に貧民窟(スラム)を捜索した分隊が当たっていたのだ。


 「おのれ……!」


 ウィルギルが沸き上がる怒りに唸りをあげたとき、馬車の扉が内側から蹴り破られた。


 「ったく……手応えねぇな。やっぱ、縛られてる奴の首を刎ねるのはストレス発散にならねぇ」


 馬車の中から男が聞いたことの無い言葉を独りで喋りながら出てきた。その手には放火部隊の一人の首を掴んでいる。


 全身返り血に染まり、手に血塗られた大剣をもつ鬣のような髪をした男。ウィルギルはこの男に見覚えがあった。


 「貴様……あの運び屋か!」


 「あ?」


 ウィルギルの言葉に、男は剣呑な表情で振り向いた。


 あの顔、間違いない。ゲルルフの元に武器弾薬や物資を運んでいた男だ。何故その運び屋がここにいるのか。


 男ーー烏丸 龍二は手にした生首を放ると、意味ありげに口許を歪める。


 「誰かと思えば、裏切り者の御犬様じゃねぇか……あぁ?」


 「貴様、この襲撃は貴様の仕業か!」


 サーベルを突き付け、牙を剥いて問うウィルギルに、龍二は面倒臭そうに舌打ちをする。


 「見りゃ解るだろ? それよりもよ……俺、あんたにかなりムカついてんだよね」


 「……くっ!」


 烏丸が放つ強烈な圧力に、ウィルギルは思わず怯みそうになる。その様子を楽しむように、龍二は続けた。


 「あんたがチクったお陰で、楽しみにしてたイベントが失敗しちまった。責任とってくれよ……その首でさぁ!」


 龍二が処刑人の剣(リヒトシュヴェーアト)を振るってウィルギルとの間合いを一気に詰める。


 「ぐあっ!」


 大剣による最上段からの一撃をまともに受け止めたウィルギルは、衝撃に耐えられず大きくよろめいた。


 「そらっ! 死ねよ!」


 龍二が邪な笑みを浮かべて処刑人の剣(リヒトシュヴェーアト)を振り上げた、その時。


 「させるかぁ!」


 黒服の騎士が絶叫を上げて鉾槍を龍二に突き出す!


 死角から不意を突いた渾身の一撃。しかし、龍二は体を大きく捻って分隊長の鉾槍を躱した。


 「ちぃっ! このっ! 死に損ないがぁ!」


 龍二は目を剥いて叫ぶと、騎士の鉾槍を大剣で叩き落とし、返す刀で分隊長に斬り付ける。


 「分隊長殿?!」


 ウィルギルが驚きの声をあげ、分隊長を庇うように龍二の間に割って入る。


 「どいつもこいつも……っ! ムカつくんだよ雑魚どもが」


 龍二が苛立ちを露に吠え、三度処刑人の剣(リヒトシュヴェーアト)を振り上げた。


 と。


 「貫け! 『(サブルム)』っ!」


 夜の闇を鋭い『ことば』が引き裂いた!





 「貫け! 『(サブルム)』っ!」


 俺は大剣を振り上げた獅子髪(ライオンヘア)の背中に魔法の礫を撃ち込んだ。


 龍二の狙いが放火部隊の始末じゃないかと踏んだ俺は、黒装束の襲撃者を躱しながら夜道を駆けて護送用の馬車に駆け付けたのだ。


 奴がこちらに背を向けている隙を狙って一撃を撃ち込んだのだが……


 龍二は素早く体を返すと、得物の処刑人の剣(リヒトシュヴェーアト)で礫を切り落とした。


 「っちぃ! 危ねぇじゃねぇか!」


 怒り心頭といった表情でこちらを睨む龍二。くそっ! 奴の背中には目がついてやがるのか。


 だがっ!


 「まだだっ! 『(フランマ)』よっ!」


 闇を駆け抜け、一気に飛び上がった黒い獅子が『ことば』を放った。火炎放射器なみの炎の奔流が龍二を襲う!


 「舐めるなっ! 『吹雪(ヒエムス)』っ!」


 龍二の『ことば』に風が冷気の奔流となってフェレスの炎を呑み込んだ。火と水のマナが激しく反応し、蒸気となって爆発する。


 「をおおぉぉ!」


 「はあぁぁぁっ!」


 もうもうと立ち込める湯気を突っ切って、クリフトさんの拳が猛然と龍二に迫った。それに合わせるように俺もサーベルを龍二に振り降ろす!


 「くっ! ふざけろっ!」


 俺のサーベルを腕の籠手で、クリフトさんの拳を大剣の腹で受け止めた龍二。だが、衝撃は相当だったのか、反撃する事なく大きく飛び退って距離を取った。


 額に汗を浮かべ、龍二は肩で息をしながら俺達を睨み付ける。


 「くそっ! 貴様ら……面白ぇじゃねぇか! こうなったらまとめてぶっ殺してやるっ!」


 狂暴な笑みを浮かべ、処刑人の剣(リヒトシュヴェーアト)を上段に構える龍二。俺とクリフトさんは龍二を挟むように身構え、フェレスも体勢を低くしていつでも飛び掛かれるように構える。


 が。突然前触れもなく、黒装束の男達数人が俺達と龍二の間に割って入るように現れた。


 「爺ぃ! 邪魔するんじゃねえよ!」


 「……我等の目的は果たした。余計な事はするなと言った筈だ」


 感情を爆発させて怒鳴る龍二を、黒装束は低く、嗄れた老人の声で諫める。


 「五月蝿ぇ! これから派手に殺り合うんじゃねぇか! そこをどけ!」


 興奮収まらぬ様子の龍二は、黒装束の言葉を無視して飛び出そうとした。と、その首筋に黒装束がサーベルの刃をひたりと当てる。


 「カラスマ……儂の言葉が聞けぬか」


 氷のように冷たく鋭い言葉。その瞬間、龍二の表情から興奮の色が潮が引くように消えていく。


 「……っ! ちっ……!」


 龍二は悔しげに舌打ちをすると、俺とクリフトさんを睨み付け素早く踵を返した。


 「龍二! 貴様!」


 俺の叫びに、龍二はふと足を止め、肩越しに俺を振り向く。俺を睨むその目は、闇の中でぎらつき光って見えた。


 「……命拾いしたな、おっさん」


 無理矢理感情を押さえ込んだようにそう吐き捨てると、龍二は夜の闇に身を踊らせ、消えた。


 同時に今まで騎士団に襲いかかっていた黒装束の襲撃者たちもバラバラと散っていき、闇に溶けて消える。


 辺りは一瞬で静寂に包まれた。まるでさっきまでの襲撃が夢だったかのように。


 「……なんだよ、何者なんだよあいつら!」


 俺はそう叫んで地面を蹴った。





 「何てこった……」


 俺達より少し遅れて駆け付けたルーファスは、護送用の馬車の状況に言葉を失った。


 「報告します。先程の襲撃による我が隊の被害は、死者15名、重傷者10名、軽傷者多数。護送中の狼人は全員が殺されました」


 「そりゃ、見たらわかるよ……くそっ!」


 部下の報告にルーファスはサーベルの柄に拳を打ち付ける。


 馬車の幌に横たえられた狼人は全て一刀のもとに首を斬られていた。


 その他にも、馬車の警護にあたっていた騎士団員全員が斬られている。龍二はそれらを全部一人でやったのだろうか。


 「……酷い」


 俺は被害確認や怪我人の手当てに走り回る騎


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