馬車での会話
ガタリ、馬車が大きく揺れた。
今まで乗っていた馬車のどれよりもみすぼらしい馬車だ。
モノとしては行商人の幌馬車が少し、立派になったくらいだろうか。ただ、妙に血なまぐさい。
前に傾いた身体を侍従が支えてくれた。
「ありがとう。」
「いえ、当然のことです」
お互い当然のように言葉少なな道中。
従者と主人など、もともと会話など無きに等しかった間柄だが、静かで心地のいい空間を提供してくれた。
「…あなたにも申し訳のないことをしました。」
「いいえ、そのようなことはございません。」
「そう。」
それきり、しばらく会話はない。
ガタゴトガタゴトと馬車は揺れる。
ふと、今までの人生を思い返してみた。
手元に置いてある日記帳をパラパラとめくる。
我ながら記録のような内容だ。
「そういえば…」
ふと思い出したように従者が顔を上げた。
「お嬢様はなぜそんなに日記をお持ちなのですか?」
従者が目を落とした日記は3冊目の日記。
日記は気付けば8冊を超えた。
「これは…私が今まで生きてきた証なの。」
出来損ないの感情のわからない私は自分で自分の存在を認識出来ないから、その日の私がその時生きてたって証拠として日記を綴っていた。
「8冊のうち最後の一冊は置いてきてしまったんだけどね。」
結婚してからの毎日を書き綴った一冊には、いろんなことを書いた。
それはなぜか屋敷の私の机の上に置いてきた。
出来ることならあの方には見られたくない。
「あの方にも迷惑を掛けてしまったわ。」
「いいえ、あの方は迷惑などと思ってはおりません」
妙にきっぱりと従者は言い切った。
気付けば馬車は止まっている。
「何故ならあの方は…ーーーー」
「リルア!!!!」
聞こえた声は懐かしく、頬に生温く濡れた感触が滑り落ちる。
「何故ならあの方はあなた様を愛していらっしゃるのだから」
従者の告げた言葉が暖かく耳にこだましていた。
感想などお待ちしております|ωΦ*)コソーリ・・・