薬屋キャロライン
とある森の奥に効果は確かなのに人気のない薬屋が存在している。
その薬屋はキャロラインという一人の若い魔女が経営している。
ひとけがないのは単純に街から離れているせいだとキャロラインは言い張るが、そもそも魔女を全面に押し出した薬のラインナップに問題があるのではないかと思う。
ちなみに私は黒猫のルナ、キャロラインが店を開くにあたり一番重要であるとこだわりぬいて買われた看板猫である。
その日、この店には珍しく若い男が店を訪れた。
ちなみに今週はじめての客である。
「モテるようになる薬ってありますか?」
真剣に聞く男はある意味この店にとても似合いの客のようだ。
キャロラインは嬉々として男を奥にまねきいれた。
彼女がある棚の一角の遮光カーテンを開くと其処には色とりどりの薬。
「さあ、好きなのを選んで頂戴!」
「これ全部ですか!?」
「そうよ、効能はいろいろだけどね。」
「なんでこんなにあるんですか。」
選びきらないのだろう。
男は困ったようにキャロラインに訊ねた。
「魔女の薬屋でしょ、せっかくだから他の店じゃ出来ないようなことしないと。」
モテル薬なんてたしかに魔法でもない限り無理だが、もっと他に特化すべきところはあっただろう。
客そっちのけでキャロラインは他にも禿に効く薬とかあるよと嬉しそうである。
むしろそちらを特化したほうが儲かりそうだ。
「じゃあこの中でオススメってありますか?」
男は、こんな森に来るだけあって心が強いらしい。
大量の薬にめげず薬の説明を求めた。
「まず言っておくけど、効果が強い薬は副作用も強いの。」
自分のするべきことを思い出したのかキャロラインが説明を始めた。
「だから貴方がどのくらいの効果を期待してるかによって勧めるものも変わるわ。」
言ってがさごそいくつかの瓶を取り出した。
そのなかから差し出したのは目に鮮やかなショッキングピンクの瓶。
「これを飲めば異性からめちゃめちゃ好かれるわ、どんな相手でも。」
「すごいですね!」
嬉々として男が受け取る。
「ただし副作用があるわ!」
「なんですか。」
「同性から死ぬほど憎まれる。」
あまりにも女から好かれれば男から疎まれるのは当然のようなきがする。
なのでそれはある意味自然なことでは?と男は首をかしげる。
「具体的には・・・今、外に男の人居るじゃない?」
「俺の友達です、ここまで案内してもらったんですよ。」
「その薬飲んで外に出た瞬間あの男に殺されるわ。」
「!!!!!!!!!」
「何かを得るためには何かを失わなくちゃいけないの」
ふう、とキャロラインはシリアスにつぶやく。
もはや憎まれるレベルの話ではないみたい。
男はそっと瓶を遠ざけた。
モテたいとか言う割りにまっとうな感性のようである。
「殺意はなしの方向でお願いします。」
「気をとりなおして次はこれ」
「殺されませんか?」
「へーきへーき」
男は警戒しているようだ。
差し出された瓶を受け取らない。
「これは女の子にめっちゃもてるわ。」
「・・・・」
「男には特に変化なし、ただ・・・」
「ただ?」
「人間以外にももてるのよね。」
「それは、どういう?」
「虫とか、動物にももってもて。」
「そうなんですか。」
「買ってくれると嬉しいな。」
「それぐらいなら・・・」
「だって前に買った人、野生動物に求愛されて亡くなったから経過のデータが少なくて。」
「やめときます。」
「もーー何なら良いのよ!」
「命の危険にさらされないものがいいです。」
「そんなんじゃあ大してモテないよ。」
「ある程度でいいです。」
男は話しながら逃走経路を探している。
しかし残念ながら扉はキャロラインの後ろだ。
「じゃあこれ。そばに居る人間を自分に惚れさせるの。」
「だけ、ですか?」
「そうよ、ただ結構な時間二人っきりにならなきゃ駄目だし、一度効いたらこの薬の効果その相手にしか出ないからモテというよりは惚れ薬ね。その程度の効果だから特に副作用は無ーし。」
「じゃあそれで。」
「えええ、男ならハーレム目指そうよーー!」
「それでお願いします!」
「ちぇ、あ、味の感想聞きたいからここで飲んでいってくれると助かるわ。」
「はい。」
男は素直に瓶を傾け飲み干す。
ちなみに感想は生クリームの様に濃厚な舌触りに香辛料のようなピリリとした刺激があるとのこと。
ふつうに不味そうである。
「うん、じゃあ好みのタイプ落とせるようにがんばってねー。」
キャロラインの無責任な発言にもめげず男は待たせていた友人の方に駆けて行く。
きっと今しがた見た怪しい薬について語っているのだろう。
時折友人も驚いた声を上げながら二人の男は楽しそうに肩を並べて森を出て行った。
翌朝。
まだ日も昇りきらない早朝にお客がやってきた。
「擦り傷とか、切り傷に効く薬がほしいんですが。」
やってきた相手は昨日外で待っていた友人だ。
「どんなの?」
これまた豊富な種類を取り出すキャロライン。
「粘膜に使うので出来るだけ刺激の少ないものでお願いします。」
「じゃあこれね。」
「ありがとうございます。」
パジャマのまま接客したキャロラインが去っていく背中を窓から見送った。
「続けてお客さんが来るなんて珍しいわね。」
キャロラインはふと考えるような仕草を見せた。
「昨日の薬のせいじゃない。」
昨日の友人が見えなくなるまでまってから私はキャロラインに話しかける。
「昨日の?」
「惚れ薬がきっとよく効いたのだろうよ。」
「ああ。口コミ効果ってやつね!」
もっと広まればいいな、と嬉しそうに微笑むキャロライン。
口コミどころかもっと具体的に薬が必要な事態にに陥ったであろう昨日のお客が幸せになれるよう、私は心から祈った。




