第96話 「俺の仲間を紹介します」
こいつらが俺を追いかけてきたこと。ビケルが仲間になってくれてなかったこと。ビケルが学校を辞めようとしていること。
一体、何を優先すればいいのだろう。
「そんなの、決まってるでしょう」
ホセの手には、相変わらず本が収まっている。
心読むなんてずるいとしか言いようがないけど、こういう時俺に突っ込んでくれるから便利だよな。ホセの能力を知らないやつらは、俺たちのやり取りを不思議そうに見ている。
「バカなこと考えてないで、知りたいことがあるんでしょう?」
口は、本当に悪い。
でもホセの言う通り、優先すべきことは決まっている。後はぶちゃっけどうでもいい。
「ホセ。どうしてビケルが仲間になってないって知ってた?」
「別に知っていたわけではないですけどね。ビケルは、望んでDクラスに来たからです。ですよね?」
ホセは、キャメルたちを振り返る。
なんだよ。全員知っているのか。
「ビケルは僕たちの中で一番最後にDクラスに入ってきました。理由は、仲間を探すため」
「仲間を、探すため?」
俺は、ビケルの方に振り返った。ビケルは、汗を大量に流し、深刻そうな顔をしている。
なるほど。これがビケルの傷か。
「仲間を探すって、どういう意味だ? 俺と同じか?」
俺も、こいつらと仲間になろうとした。
「違う。こいつは、シュラとは違う」
ノックルが、金色の瞳でビケルを睨む。そういえば、俺が初めてDクラスに入った時もこいつらの仲は険悪だったな。
「俺は」
ビケルが、声を発した。それはさっきまでと違って、罪悪感に溢れたものだった。
「俺は、近くにいる者の全ての魔法を無効化にするんだ。だから今まで誰も友達になってくれなかった」
そうだったな。だから、ホセも俺を挟んで近寄ってこないのか。
「でも落ちこぼれだらけのDクラスなら、そんなの関係なく友達になってくれると思ったんだ。仲間ができると思ったんだ。俺は俺のために、仲間を作ろうとしたんだ」
「それで、お前らはどうしたんだ?」
「否定したんだよ。そもそも、俺たちは仲間が欲しいなんて思ってもなかったからな」
やっぱりな。だからキャメルもあの時ビケルを頼ることが嫌だったのか。
「俺が間違ってたんだ。仲間が欲しいなんて。俺なんか、誰からも必要とされるわけないのに」
確かに、自分のために仲間を求めるのは間違っているのかもしれない。でも、誰かから必要とされたいビケルの気持ちも分からなくもない。
「だから。俺がみんなと仲間になれたから、もういいのか?」
「ああ。みんなが仲間になってくれたなら俺はもういらないだろ」
ふざけんな。俺が、何のために仲間になろうとしたのか。こいつは忘れたのか。
「ふざけるな! 俺は、Dクラスにいるやつと仲間になりたいわけじゃない! 俺は、ホセと、ノックルと、キャメルと、ソディーと、ビケルと! 仲間になりたいんだ。この学校を見返すために。お前もいなきゃ、意味ないだろ!」
必要ないやつなんていない。
「だって、俺なんか役に立たない。魔法を無効化にするなんて、みんなの迷惑になるだけだ」
これが、こいつの本音なんじゃないか? それなら、俺のやるべきことは決まっている。
ビケルは、突然目の前に差し出された俺の手に、驚いた顔をする。
「俺は、自分勝手で迷惑かけるだけなのに」
「お前は本当に自分のことしか考えてなかったのか? 違うだろ。どうしてDクラスの総長なんてやってる? どうして最初に俺の考えに乗ってくれた? お前は誰かに必要とされたかっただけなんだろ。俺の手を掴めよ。俺は、お前が必要だ」
他の奴らがどうだろうが、俺はこいつとも仲間になりたい。もし、ホセたちが反対するとしてもだ。
「今さら、そんなこと思う人がいるわけないでしょう」
俺の手のそばに3つの手が重なる。
「もう1人で抱え込まなくてもいいそうですよ」
「私だって、気持ち悪いって言われてきたのよ。あんたの気持ちが分からなくもない」
「シュラくんは、こんな私でも必要としてくれたから。ビケルくんが必要ないなんてないと思うよ」
「俺は、まだ認めたわけじゃないけど。でも、俺を受け入れてくれたシュラが受け入れるっていうなら、俺も受け入れる」
唯一手を出さなかったノックルは、軽くツンデレぎみだ。手を出さないのは傷つけたくないからだろうに、素直じゃないな。
「お、俺も、仲間になっていいのか?」
ビケルは右手を俺たちの手の前でうろうろさせる。
「当たり前だろ」
自然と、笑みがこぼれてくる。
俺は右手で4人の手を取り、左手でノックルの手を奪い取った。
「俺たちは、仲間だ」