第95話 「押し問答みたいだ」
この学校と寮は隣接している。いくら学校が広いと言っても、校門から寮までは歩いて約15分ほど。
でも、この時ほどその距離が遠いと感じることはなかっただろう。
「はあ。はあ」
俺は、必死で走って寮の入り口まで着いた。
「シュラ。お前、何でここに」
ちょうど、出てきたところなのだろう。荷物を抱えたビケルが、驚いた顔で俺を見ている。
「はあ。いや、ちょっと、お前。はあ」
くそ。この小さい身体が情けない。あの距離を全力疾走したくらいで、息が切れてやがる。
「落ち着け。何してるんだ、お前。もう学校始まってるだろう」
何でこいつは、こんな時も人のことばっかり考えるんだ。そういえば、出会った時も、仲間になってくれた時もそうだった。
「違うだろ! 今は、俺のことじゃない。何で、急に学校を辞めるんだ! お前がいなくても大丈夫って、どういう意味だよ!」
俺はビケルに詰め寄って、胸倉を掴もうとした。が、大きい図体のこいつの胸倉なんて俺の手が届くわけがない。
「ちっ」
とりあえず逃がさないのが目的だからな。腹辺りで妥協しとこう。
「一番初めに仲間になってくれたじゃないか! やっと全員、仲間になってくれたんだ。これから見返すんだ。そんな時に何で」
「だからだよ」
「え?」
俺は、ビケルの顔を見つめる。ビケルも俺の顔を見つめ返す。その顔は自分を責めている顔でも、悲しんでいる顔でもない。いつものビケルの顔だ。
「全員仲間になったんだろう? なら、俺はいらないじゃないか」
こいつは、この言葉を本気で言っている。
「何言ってるんだよ。そんなわけないだろ!」
「シュラこそ何言ってるんだ。俺は、誰からも必要とされない。必要とされるわけがないんだ」
ビケルは、本当に不思議そうな顔をしている。
不思議そうな顔をしたいのはこっちだよ。どういう意味だ。必要とされない人間なんているわけないじゃないか。
俺はもう、こいつに何を言っていいのか分からなくなった。
「話しはそれだけか? もう行くぞ」
「あ、おいちょっと待てよ。俺と仲間になってくれたのは」
あれは、嘘だったのかよ。
「あれは、お前が大変そうだったから手伝うって意味で考えに乗るって言っただけで。別に仲間になるって意味じゃあ」
なんだよそれ。初めから仲間じゃなかったのか。
ちょっと待て。そういえば、ホセが。ビケルが仲間になったことに対して疑問を抱いてたけど。あいつ、もしかして何か知ってたのか?
「やっぱり、ビケルは仲間になんかなってなかったんですね」
「え?」
俺は、来た道を振り返った。
「お前らまで。何で」
学校が始まって数十分。学校の外。寮の前。
そこにDクラスの生徒が勢ぞろいしていた。