第91話 「言葉って難しい」
俺は、少し勘違いをしていたかもしれない。
他のDクラス生、キャメルもソディーもホセも自分が悪いと責めていた。でもそれは、本当にあいつらが悪いわけではなかった。
だけど、ノックルは違う。そりゃ、コナーになったのも剣力を制御できないのもノックルのせいではない。でもアンディー先生とケイトを傷つけてしまったのは、ノックルだ。それが原因で、アンディー先生とケイトはノックルを恨むようになったんだろう。
それなら、俺がこいつに何を言っても無駄なんじゃないのか?
お前のせいじゃないなんて言ったところで、ノックルが傷つけた事実は変わらないし。それが変わらない限り、自分を責め続ける。
俺は裏切らないと言ったところで、俺を信じるか信じないかはノックル次第だし。アンディー先生たちに見捨てられて人を遠ざけてきたノックルにとって、確定不可侵な未来を信じることは難しいだろう。
俺は、ノックルになんて言えばいいのだろう。裏切るつもりはない。ノックルが悪いとも思っていない。それを伝えたところで、こいつの心に俺の想いは届くのだろうか。
「傷ついた心を持ったやつには、本気の心しか届かんよ」
ふいに、じいさんの言葉を思い出した。
本気の心って、何だ。ノックルを裏切らない気持ち。ノックルを悪くないと思う気持ち。ノックルの仲間になりたいっていう気持ち。
どれも俺の本気だ。でも、ここで必要なのは、もしかしたら。
俺は、ノックルの腕から手を放した。ノックルのうろたえた瞳が俺を見つめる。
「俺は、お前を受け止める。お前がやってしまったことも、現実も。全て、受け入れてやる」
俺がすべきことは、裏切らない未来を信じさせることでも、自分の気持ちを伝えることでもない。
ノックルが俺を信じてくれなくてもいいんだ。それでも俺はこいつの受け皿になってやる。
「俺は、お前を信じる。いつまででも、待ってる」
俺は、再度ノックルに手を差し出した。