第90話 「もう嫌なんだ(ノックル視点)」
ケイト姉ちゃんとアンディー兄ちゃんに見捨てられたあの日から、俺は人と近づくのが怖くなった。
「お前が嫌だって言っても、絶対にこの手を放さない」
絶対痛いはずなのに、シュラは俺の手を放そうとしない。信じてもいいのだろうか。
アンディー兄ちゃんには、顔に似合わず臆病者だって小さい時から言われたきたけど。本当にその通りだと思う。でも、俺よりまだ全然小さいのに、痛みに耐えているシュラを信じなくて誰を信じろというのだろう。
「本当に、全て俺が悪いんだ」
全てを知って、見捨てられるのは怖い。でも、それ以上に今シュラの手を取らずに孤独のまま過ごすのも怖いんだ。
「俺が生まれたのは第1エリアの田舎の村。そこに子供は3人しかいなくて。それが俺といとこのケイト姉ちゃん。そしてアンディー兄ちゃん」
「ん? アンディー先生もいとこなのか?」
「あ、違う違う」
言い方が悪かったか。
「いとこなのは俺とケイト姉ちゃんだけ。アンディー兄ちゃんは、村長の息子で、俺たちの世話をよく見てくれてたんだ」
あの頃は楽しかった。ケイト姉ちゃんは俺と2歳違いだけど、アンディー兄ちゃんは俺と10歳も離れているのに遊んでくれていたし。
「それからしばらく経って、アンディー兄ちゃんはここに入って、そのまま教師になった。そしてケイト姉ちゃんが10歳、俺が8歳の時にこの学校に入って、兄ちゃんと再会したんだ」
その頃、俺はまだこれから起こることを予想もしていなかった。
「それで?」
シュラが聞きたいことは分かっている。どうして、ケイト姉ちゃんたちを傷つけることになったかだ。
信じてくれるのだろうか。忘れないでくれるのだろうか。
「シュラは、コナーがどうやって生まれるか知ってるか?」
「え? 普通に、生まれるんじゃないの?」
やっぱり知らないよな。コナーしか知らないことだ。
「チキナーは、遺伝する。親がどちらかチキナーなら、子もチキナーになる。でもコナーは、初めはヒューマニーとして生まれるんだ。そして、10歳の誕生日にコナーの力を授かる。だから、コナーは突然変異として生じるものなんだ」
「そんなの、習ってない」
シュラは、うろたえた顔で俺を見つめる。
俺は、授業に出てないから今何の勉強をしているかは知らないけど。おそらく、人種のことでもやったんだろうな。
「コナーになった者しか知らないんだ。俺がコナーになる前に出会った人は俺のこの話を忘れ、俺をヒューマニーだと勘違いしたままになる」
「コナーになった後に出会った人は?」
答えられなかった。
「忘れるの? 忘れないの?」
「分かんない。俺、コナーになって出会った人にこの話しするの初めてだから」
「えー。何だよそれ」
だって、シュラだけだったんだ。俺の本心を聞いてくれたの。俺の手を掴んでくれたの。
あの日から、俺の周りには誰も近寄らなくなった。
「学校に入って2年。10歳の誕生日。俺は、コナーの力を授かり、その力でケイト姉ちゃんとアンディー兄ちゃんを傷つけた」
コナーの力はただ肌が硬いだけじゃない。同時に、剣力も高くなる。でも、俺にはそれを制御することが出来なかった。
「本当に、俺が悪いだけなんだ。ケイト姉ちゃんたちが俺を恨むのも分かる。でも、出来ることなら」
出来ることなら、俺だって受け入れて欲しかった。見捨てないで欲しかった。
「これが、俺の全部だ」
シュラの手が、俺の腕から離れていくのを肌で感じた。




