第89話 「本当は、痛いです」
いつまで経っても来ない衝撃に、俺は恐る恐る目を開けた。
「ノックル!」
目の前には、壁に拳をぶつけているノックルが1人。その腕は、剣で軌道が変えられていた。その剣を握っているのは、ノックルの左手。
「お前、まさか俺の剣を抜いて自分で」
「お前が、抜かないからだろ」
ノックルが、俺に剣を渡す。
ノックルの腕からは血が少し出ているものの、大事には至ってないようだ。ノックルの言った通り、コナーには剣は利かないらしい。
「だって、仲間に剣を向けるのは嫌だったんだ」
どれだけ俺が傷ついても、俺が仲間を傷つけるのだけは嫌だ。
「バカ。それでお前が傷ついても意味がないだろ。だから、俺に近づくなって言ったんだ」
ノックルの言葉は悪態をついているものの、さっきと違って少し優しいものだった。
「ノックル。もう聞かせてくれてもいいだろ? お前は、何を抱えているんだ?」
ノックルは、何も言わない。でも、逃げようともしない。ただ俺の傷ついた眉間を、顔を悔しそうに歪めて見つめている。
「この攻撃は、お前の意思によるものじゃないんだろう?」
俺は、ノックルの傷ついた腕をとった。それと同時に、俺の手に衝撃が走る。
「バカ! 触るな」
ノックルが、俺の手を払いのけようとする。それでも、手の痛みに耐えて俺はノックルの腕を握りしめた。
「前に言っただろう。俺はお前と友達になりたい。お前の傷を全部受け止めてやる。何があったのか、話してみろよ」
ノックルの金色の瞳が、すがるように俺を見つめる。
こいつこんな強面の面してるくせに。見かけ倒しなやつだよなあ。
「ああ! もうまどろっこしいなあ! 同じクラスのやつを傷つけたくない。それがお前の本心だろ? 人を遠ざけるだけじゃなくて、頼ってみることを覚えたらどうだ?」
「いい、のか?」
ん? 何のことだ?
「は?」
「いいのか? 俺がどんなやつでも。ケイト姉ちゃんとアンディー兄ちゃんを傷つけたのが俺だとしても。それでも、お前は俺の仲間になってくれるのか?」
もしかして、ノックルの恐れているのは裏切られることなのか?
それなら、そんな問いは無意味だ。
「当たり前だろ。俺はしつこいんだ。お前が嫌だって言っても、絶対にこの手を放さない」
まあ、そろそろガチ目に痛くなってきたから放したいけど。
「本当に、全て俺が悪いんだ」
Dクラスの共通点って、自分に責任を強く感じていることだよな。