第88話 「俺の剣は仲間を守るためにあるんだ」
あの時、サンに剣道場に呼び出されておいて良かった。あれがなかったら、剣道場の場所分からなかっただろうな。人生に、無駄なことはないな。
「はっ」
剣道場の中から、男の声が聞こえる。
「ノックル。いるのか?」
「シュラ! お前、また」
剣道場には、ホセの言った通りノックルがいた。部屋の中央に立って、俺の方を見ている。
「何やってるんだ? お前」
「バカ! 入って来るな!」
「え?」
目の前に、ノックルの顔が現れる。それを認識するまもなく、俺は自分が横に吹き飛んだのを感じた。
「いってぇ」
顔に血が垂れる。眉間が少し切れたようだ。
今の、ノックルが? 部屋の中央にいたのに、あの速さ。
いやそれよりも。何で、俺を攻撃してくるんだ。
「シュラ! 避けろ!」
「うわ!」
ノックルの右手が、俺のすれすれを横切って床にぶち当たる。
「何してんだよ! ノックル」
「だから俺に関わるなと言ったのに。あと5発なんだ。いいから、避け続けろよ」
ノックルの言っている意味は理解できない。でも、とりあえず5発を避けきればいいんだな。
理由は後で聞いてやる。
「後で、ちゃんと聞かせろよ!」
ノックルの右足が、俺の真上に来る。それを後ろに下がることで回避する。
あと、4発。
「剣を抜け! シュラ」
「そんなことしたら、お前が傷つくじゃないか」
いくら、ノックルが攻撃してくるといっても、ノックルは生身の身体だ。
「俺はコナーだ。剣くらいどうってことない!」
ノックルは俺と間合いを詰め、右手を横に振る。俺は身体を曲げ、床に手をついて避けた。
速いっちゃあ、速いけど。慣れれば避けれる。
「大丈夫だ。避けきれる。それに、俺は仲間に剣を向けるのだけは絶対に嫌だ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
その間にも、ノックルは攻撃を繰り出す。
あと1発。
「次でラストだろ。大丈夫。あ」
俺の背中に剣道場の壁が当たる。
やば。もう後ろがない。
「シュラ! 剣で俺の拳を止めろ!」
ノックルの右手が、眼前に迫る。避けきれない。
でも、生身の相手に剣で対抗するなんて。仲間に剣を向けるなんて。
「い、嫌だ!」
「くそっ。俺だって、俺だって! 同じクラスのやつを傷つけたくねえよ!」
来る衝撃に備えて、俺は目を閉じる。剣道場に、大きな音が鳴り響いた。