第87話 「知識のことならこいつだろ」
コナーという人種が、硬い肌を持っていることはリュンから習った。でも、それ以上は教えてもらえなかった。城にはコナーはいなかったし、会うのも初めてだ。
「というわけで、何か知っていたら教えてくれないか?」
「は?」
目の前の男の子は、相変わらず本を片手に持っている。
「どうせ俺の心見えてるんだろう? ノックルのこと。コナーのこと。何でもいいから教えてくれ」
「そういえば、王子様。さっきの授業休んでましたね。ノックルを探しに行ってたんですか」
ちっ。そういえば、さっきは学術の授業だったな。
ホセは、友達になっても相変わらず俺のことを王子様と呼んでくる。こいつは、認める認めない関係ないだろ。もしかして、まだ認められてないってことなのかな。でも、今は何を言っても無駄だろうな。
「ああ、そうだよ。それでノックルがコナーだと知った。でも、コナーの肌があんなに硬いとは知らなかったんだ」
傷ついた手のひらをホセに見せる。
俺は尽力が高いわけでもないし、治りが遅い。まだ血がにじんでいた。
「普通、コナーは、触れただけで人を傷つけるほどの肌は持っていません」
ん? どういうことだ? ノックルはコナーじゃないのか? それともノックルは普通ではないってことか?
「ノックルは、コナーの身体に加えて、抑えきれない剣力が体中を覆っています。あなたを傷つけたのは、それですよ」
そういえば、ノックルは剣力が高いって言ってたな。でも、抑えきれないほどって。そんなことありえるのか。
「ありえるんですよ。彼は自分の剣力を制御できません。それでも、まだ身体を覆うくらいなら人を傷つけることはなかった。でもある日、ある人を傷つけてしまった。だからDクラスにいるんです」
「それって、アンディー先生とケイトか?」
「何だ。知ってるんですか」
やっぱり。2人の腕にあった傷は同じものなのか。
「ノックルとケイトはどういう関係なんだ! 何で、身体を覆うだけの剣力が急に人を傷つける!」
触れなきゃ傷つかないなら、気を付ければいいだけだろ。そのくらい、周知の事実だったはずだ。
「ちょっと、詰め寄らないでくださいよ。ケイト・ミューンは、ノックルの父親のお兄さんの娘。つまり、いとこです。彼らに何があったのかは、僕は知りません」
ホセが知らないなら、ノックルかケイトに聞くしかないか。
「あと、ノックルだけなんだ。直接聞きに行くか。そうだ! ホセ。お前の魔法でノックルがどこにいるか探してくれよ」
「ノックルだけ? ビケルは?」
「え? 一番最初に、友達になったけど」
何で、ホセは俺以上に驚いているんだ。
「ビケルと、ですか? 彼が友達になったねぇ」
「なんだよ、その含みのある言い方は」
「ああ。いえ、何でもありません。ノックルがどこにいるか、でしたね。仕方ありませんね。1つ貸しですからね、王子様」
素直にやってくれればいいのに。一言多いんだよな、こいつ。まあ、やってもらう身だから文句は言えないけど。
「コーラス。ノックル・ハンリ」
ホセは本に向かって呟く。
「ノックルは今、剣道場にいますよ」
「ありがとう! ホセ」
後ろで先生が教室に入ってくる音がしたけど、俺は構わず部屋を飛び出した。