第86話 「こいつは何を隠している?」
ケイトは、ノックルを睨みながら去っていった。俺には、もう彼女を止めることは出来なかった。
「ノックル」
ノックルは、前回と違って去ろうとはしない。
というか、俺のことに気付いてない? 悲しそうな、悔やんだような顔で自分の手を見つめている。
「ノックル」
全然、こっち見ない。
「ノックル!」
俺は、焦れてノックルの手を掴んだ。
「っつ。え、なに?」
思いっきり掴んでしまった手は、強い反発力をもって俺の手を傷つけた。
「シュラ! お前、いつの間に」
本当に気づいてなかったのか。
というか、何だ今の。こいつの手を掴んだはずなのに異様に硬かったぞ。軽く触ったくらいで、血が流れてるし。
ノックルの手に、なにかが付いているようには見えない。俺は確かに、ノックルの手を掴んだはずだ。
肌が硬い? もしかして、ノックルはコナーなのか。
「あ、悪い。あの、大丈夫か」
俺の手を見て、青ざめた顔をしている。
アンディー先生に言われてドアを取り付けていたことといい、意外に素直なんだよな。こいつ。
「いや、別にこのくらいの傷。大丈夫だから」
「もう俺に近づくな。じゃあな」
「あ、おい」
このままじゃ、行ってしまう。せっかく会えたのに。
その硬い身体に何かノックルの秘密があるなら知りたい。でも、ノックルに触れるとまた傷がつく。
俺の保身のために言っておくが、別に傷つくのが怖いわけではない。俺が傷ついたことで、ノックルがまた責任を感じるのが嫌なだけだ。俺はこいつに後悔を負わせたいわけではない。同等な立場でいたいんだ。
おっと。そんなこと考えている場合じゃない。どうやって呼び止めれば。
「ノックル!」
俺の渾身の一声に、ノックルは反応すらしなかった。