第83話 「全部教えてくれ」
話しを整理すると、ホセは心が読める。賢者級の魔法が使える。ここまでは、オッケーだ。
「で?」
あえて、続きは言わなかった。
「Dクラスに落ちることになった事件。それを聞けば、他の疑問も解決すると思いますよ」
ホセは、俺が聞きたいことを正確に読み取っていく。
「あなたは、賢者級を使えるようになる条件は知ってますか?」
あれ? 事件の話しが始まるんじゃないのか?
「知らないけど」
「これ、法術の授業で習うはずなんですがね」
一時期、サボってた時があったからなあ。
「まあ、いいでしょう。賢者級を使うには、その魔法をつかさどる賢者に会わなければいけません」
俺の気まずい顔に、察してくれたようだ。
それぞれの魔法に、賢者がいるのか。だから、賢者級と呼ばれている。
「賢者に会うことだけが条件?」
それは、あまりにも簡単すぎないか?
「そうです。しかし、賢者がいる場所は誰にも分かりません。見つかると移動するから、過去の文献すら参考にならないのです」
つまり、見つけだすことそのものが試練になっているわけか。
「今から1年前。僕はまだAクラスにいました。そして、僕の幼馴染だったカディー・ヤンクも」
「カディー・ヤンクって。ソディーの」
「ソディーの姉です。彼女はソディーのような黒の羽を持ってはいませんでしたが、Aクラス並みの能力はしっかりと持っていました」
ソディーに姉がいることは知らなかった。ソディーと仲良くしないことに、姉が関わっているのか。
「僕はそのころから学術は好きで。それで、賢者の場所を突き止めました。そのことをカディーに言ったら、私も一緒に行くと」
「それで」
「賢者に会うことはできました。でも、賢者は最低なやつだった」
ホセは、本を持っていない方の手を、きつく握りしめた。
「何があったんだ?」
「2人の内、片方にだけ賢者級の魔法を授ける。そして片方はその代償として全ての能力を頂く」
それは、ホセの口から出たはずなのに、別の誰かの言葉のように感じた。
「賢者の言葉です」
「待てよ。それなら、ホセが今賢者級を使えるのって」
「僕のせいで、カディーは全てを失ったんですよ」
残酷な言葉とは裏腹に、ホセの顔は深く絶望しているように見えた。
ホセが現実に賢者級を使っているなら、カディーを犠牲にしたのは間違いない。でも、それをホセが望んでやったとも思えない。
「う、嘘だ! お前、まだ何か隠してるだろ」
「な、なんで」
「おかしいんだよ。ただ賢者級の魔法を手に入れただけでDクラスに落とされるのも。それに、俺はお前が、誰かを犠牲にしてまで力を手に入れるようなやつだとは思えない!」
そうだ。おかしいんだ。ホセがそんなやつなら、大切な人を守れなかったなんて言うはずがない。
「な、なんで、あなたがそんなこと言うんだ。誰も、信じてくれなかったのに。なんで、今さら」
やっぱり、何かあったんだな。
「俺だけじゃない。ソディーも言ってた。お前は、本当は優しいやつだって。本当のことを全部話してくれ」
聞きたい。ホセに何があったのか。好奇心とかじゃなくて、友達としてちゃんと受け止めたい。
「僕がもっと早くカディーの想いに気づいていれば」
ホセの告白は、後悔の言葉から始まった。