第82話 「まだほんの序の口だけど」
「ねえ、王子様」
ホセは、夜空を見上げながら言う。
まるで、俺が来ることが分かっていたような口ぶりだ。
「約束は守ってもらうぞ」
「本当に、期待を裏切りませんね。あなたは。どこまで、ソディーに聞きました」
話してくれる気は、あるみたいだな。
俺は、ホセの隣に腰を下ろした。
「お前が、ソディーと幼馴染だってこと。何か事件があってDクラスに来たってこと。そのことに罪悪感を感じていること。あと、えっと」
あれ、これだけだっけ? そもそも、ホセの名前を聞いたのは。
ああ、そうだ。
「俺が、心が読めないって言った時、ホセくんとは違うって。これも、関係あるのか?」
「そこまで聞いているなら、話しは早いですね」
関係あるのかよ。でも、このことも関係あるってことは。
「お前は、心が読めるのか?」
「違いますよ」
望んでいたわけではないけど、否定が返ってくるとも思わなかった。
「心を読むっていうのは、一種の能力です。僕が読んでいるのは、文字です」
「は?」
なに言ってんの、こいつ。
「魔法には、レベル1からレベル3。そして賢者級があるのは知ってますね」
「あ、ああ」
そりゃ、基礎の基礎だろ。
「なら、賢者級の人魔法は知ってますか?」
「いや、知らない」
「賢者級の人魔法とは、範囲内の人間の行動を覗くコーラス。そして、話している相手の心の声を聞くヒーラ」
「お前、まさかその賢者級が!」
「使えますよ」
ホセは、軽く言い放った。
賢者級の魔法を使える人間がいるとは。リュンも使えなかったのに。
「まあ、賢者級を使うには条件がありますからね。僕もまだ人魔法しか使えませんし」
あ、こいつ心の声聞けるのか。
「言っておきますが、今は聞いてませんからね」
「じゃあ、なんで俺の考えていることが分かって」
「そのくらい、顔を見れば分かります」
こいつ、賢者級使えるとか関係ないじゃん。
「でもお前が心読めるのは本当なんだろ? 文字を読んでるって、どういう言い訳だよ」
「言い訳じゃありませんよ。僕は、コーラスとヒーラを組み合わせて特魔法を創りました。それが、この本です」
「それって、ホセがいつも読んでる」
ホセの手の中には、いつもの本が収まっている。俺と話すときは、いつも開いていたよな。
「この本に、自動的に相手の心の声が表示されるようになっています。また、指定した人間の行動も表記されます」
だから、キャメルと何があったか。ソディーがどこにいたのか。手に取るように分かったっていうか、実際手に取っていたってことか。
「これが、ソディーの言葉の意味ですよ」
予想以上のホセの秘密の大きさに、空いた口が塞がらなかった。