第80話 「彼が珍しいだけです(ホセ視点)」
学園に入学したとき、僕はまだ希望を胸に抱いていたと思う。大好きな勉強、それに伴って上達する魔法。世界は、光に満ちていた。
「さて、王子様とソディーはどうなりましたかねえ」
あの事件でDクラスに落とされて、僕の生活は退屈なものへと変わっていった。Dクラスには、上を目指すものは誰もいない。授業にもまともに出ない。それが普通だった。
でも最近入ってきた王子様は、Dクラスに染まろうとしなかった。それどころか、彼はその純粋な心で、僕らの仲間になろうとした。
「なあ、頼むからシュラのこと助けてやってくれないか?」
今朝の旧友の言葉が、頭の中によみがえる。
「何で、僕が」
「相変わらず素直じゃねえな。シュラのことを一番気になっているのは、本当はお前だろ。だから、シュラと話すときはいつも本を持っている」
Aクラスの時、一番仲の良かった旧友は、僕のことを一番理解していた。
「俺に借りがあるってことにすればいいだろ。頼むから、助けてやってくれ」
あの時、ユアンの頼みを断れなかったのは、多分ユアンの言ったことが図星だったから。
あの事件で大切な人を守れなかった僕は、Dクラスの問題を解決しようとする王子様に自分を重ねていたのかもしれない。
「コーラス。シュラ・イレーゼル、ソディー・ヤンク」
僕の声に呼応して、本紙の上に王子様とソディーの状態が記録されていく。
どうやら、無事解決したみたいだ。良かった。
「ってことは、もうすぐここに来ますね」
僕がいつもここにいることは、ユアンは知っている。王子様はユアンと同室だったはずだ。あの好奇心旺盛な彼が、知りたいことを先延ばしにするとも思えない。
「今日の夜は、長くなりますね。ねえ、王子様」
「ハア、ハア。やっと、見つけた。ホセ」
寮の屋上で息を整えている王子様の方を向く。
「ソディーは俺の手を掴んでくれた。約束は、守ってもらうぞ」
相変わらず、本に表示される彼の心と彼の言葉は同じものだった。