第79話 「サンの言葉を信じてみた」
そんなに長いことサンと話してないし。いくらこの前7歳になったばかりだからと言って、女子の足に追いつけないこともない。
いくらか走ると、壁に手をついて息を整えているソディーに追いついた。
「そんな無理して走るなよ」
「シュラくん! っつ。ゴホゴホッ」
「だから、無理すんなって」
再度逃げようとしたソディーの腕を掴む。もう逃げようとしない。いや、逃げれないのか。
俺は、ソディーの息が整うのを待って言った。
「あのさ、俺なんか嫌なところあったら直すから。とりあえず、俺の話しを聞いてくれないかな」
「そんな、シュラくんの嫌なところなんて!」
「え?」
嫌なところがあって逃げてたわけじゃないのか。やっぱり、サンの言ってることは当たってたのか?
「あの、えっと」
ソディーはどもってしまう。幼いころから蔑まれて、こんな性格になったってキャメルが言ってたもんな。
「あのさ、俺、心が読めるわけじゃないし。まだ、小さいから人の気持ち汲むのも苦手だし。ちゃんと聞くから。ゆっくりソディーの言葉で聞かせてくれないかな」
こんな時だけ小さいことを理由に出すのはずるいとは思うけど。子供に甘いのは、どの世界でも同じだろ?
「そう、よね。ホセくんとは違うものね」
ん? 何で、ここにホセが出てくるんだ。
「あのね。私、もう誰も巻き込みたくなくて。キャメルちゃんもシュラくんも、私のせいで傷つけちゃう。だから、私に関わらないで」
俺の疑問を無視してソディーの話しは続く。今は、ソディーの話しの方に集中しよう。
巻き込みたくないだって。俺は、そんなこと思ってない。
「ソディー。俺は、巻き込まれたなんて思ってない。それは、キャメルだって同じだ。ソディーに関わってんのは、俺の意思だ」
「でも、私なんかに関わっても」
ああ、もうラチが明かないな。
「お前こそ、人の心でも読めるのかよ!」
あ、やべ。怒鳴っちゃったよ。怯えさすことが目的じゃないのに。
「あ、違う。ごめん。あのさ、俺はさ俺の心分かるよ。だって俺だもん」
自分でも何言ってんだか。でも、俺の気持ちを伝えないと。
「ソディーは、誰にも迷惑をかけてない。何も悪くない。だから、もっと俺を、キャメルを信じてくれ。頼むから」
ソディーは、何も悪くない。悪いのは、ソディーを蔑んだやつら。いじめたやつら。そいつらのせいで、もうソディーが傷つくことはないんだ。
俺は、もう一度ソディーに手を差し出した。
「うん。うん」
ソディーの女の子らしい手が、俺のまだ小さい手を掴んだ。