第8話 「目標は常に高く」
この日のリュンの顔を、俺は一生忘れないだろう。
「はああああああああああ」
リュンは、深いため息を吐く。
「な、なんだよ」
呆れたような、蔑んだような瞳が、俺の顔を刺す。
こいつ、俺が王子様っていうのを忘れてるんじゃないか?
「だろうと思ってましたよ。あなたには、この世界の仕組みから教えないといけませんね」
リュンは、世界地図を黒板に張り付けた。
「この世界には多くの国が存在しています。その中でも一際大きいのがここ、バリント」
地図の右半分は、バリントによって支配されている。左半分には、様々な国名が書かれてあった。
「知ってるよ、そのくらい」
「ですが、何もバリントがこの土地を作ったというわけではありません。土地、海、ひいては我々生物を作ったのは、神と呼ばれる存在です。神がこの世界を作り、3つの人種を作り、5つの力をお与えになりました」
つまり、この世界では神が信じられているということか。
てことは、俺をこの世界に転生させた、あいつも神の仲間か?
「3つの人種ってなんだ」
「私たちヒューマニー。羽を持ったチキナー。そして、硬い身体を持ったコナー」
ちょっとワクワクしてきた。
人種に分かれてるって、すごい異世界っぽい。今まで俺と同じヒューマニーしか見たことなかったからな。
「話が逸れましたね。神が作ったこの世界では、多くの職業があります。そしてそれは自身の持つ力によって、決められます」
「リュンが執事になるために賢力を伸ばしたのもか?」
「そうです。剣力に優れたものは兵隊や冒険家、剣士など。賢力に優れたものは執事や教師、商売人など。法力に優れたものは魔法使いや医者など」
なるほど。力が自分を規定するものになるということか。なら、別に全部伸ばしてもいいじゃないか。
「それと、全部伸ばしてはいけないことにどう繋がるんだよ」
「これだけ職業があっても、全部伸ばした者のための職業はない。つまり、今まで全ての力を限界まで引き上げた者はいません。どの人物でも必ずどれか欠点となる力が存在します。全ての力を持つというのは、この世界を作った神に匹敵する力となるからです」
要は、神に近づく者が現れるのが怖いんだろ? 神に近づきすぎた英雄は翼をもがれるってか。
それなら。
「俺が、全ての力を持った神になってやるよ」
俺のこの世界での目標が決まった。