第76話 「やりますかとは言ったけど」
さて、旧校舎にやって参りました。
「さあ、お楽しみの時間だ」
目の前の男たちは、心底楽しそうに言う。
実際、楽しいんだろうなあ。今から、1人の少年で遊べるんだから。なんか、こういう言い方するといかがわしいな。
と、まあ現実逃避はこれくらいにして。どうしようかな、これから。反撃はするけど、簡単には逃げれないよな。
「なら、俺からな。サイ!」
風の刃みたいなのが飛んでくる。然魔法だよな。見たことないけど。
俺は、足を動かして横へ跳んだ。
「はっ。避けきれると思ってんのか? おらよ!」
風の刃は無限に飛んでくる。
そういうことか。じいさんとの特訓の成果、見せてやる。
俺は、剣を抜かずに風の刃を避け続ける。単調で飛んでくる攻撃くらいなら、避けれるんだよ。
「ちっ。中々、当たらないな。おい、お前らもやれよ」
「ああ。そうだな」
げっ。やっぱり、1人ずつ来るほどバカではないか。
「僕に、当てないでくれよ!」
3人の内の1人が、剣を抜いて迫ってきた。俺は、かろうじてブラックを抜いて受け止める。
「さて、この状態で避けきれるかな?」
剣の男は不敵に笑うと左をちらっと見た。
なんだ?
俺の目もつられる。
「コールド!」
3人目の男か。氷の玉が飛んでくる。
「くっ」
俺は、ブルーを抜いて氷を弾き飛ばした。
「2剣使いか。だが、こっちは3人だ。いつまで、持つかな」
剣の男は、剣を振るう手を休めることはない。サンほどではないにしても、相当な腕前だ。
「ははっ。こりゃ、いいな。避けようとしないキャメルも良かったけど、反撃して来るのも良い練習台だ」
こいつら、人を物みたいに。キャメルの気持ちを、ソディーの気持ちを、考えたことがあんのか!
「サンテック!」
「うわっ」
ブラックから電撃が発せられ、剣を通じて男に当たる。
「お前、今何して」
「あいつ、剣から魔法出さなかったか」
「バカ。そんなこと出来るわけ」
男たちは、混乱状態だ。
「ひ、ひるむな。こっちは3人なんだ。あれ、やるぞ」
「お、おう」
え? なにやるの。
3人は、手を中央に向かって揃える。
「フィアム」
「ウォール」
「サンテック」
3人から発せられたそれぞれの魔法が、混ざり合い大きな球体になった。
「特魔法、フィーテック」
そりゃ、特魔法って2つ以上の魔法を組み合わせることだけど。そんなのありかよ。3つの魔法。しかも、1人1人が出したのを合わせるって。
どれくらいの威力かは分からないけど、受け止められるか。
俺は、ブルーをしまい、ブラックを両手で構える。
「バカですねえ。あんな巨大な魔法を剣で受け止められるわけないでしょう」
「え?」
目の前に、見覚えのある少年が現れる。そいつは、本を片手に持って、いつもの口調で俺をバカにした。
「相殺しろ。特魔法、フィーテック」
「ホセ?」
ホセの片手から発せられた魔法は、3人で作られたものよりも数倍大きい。
これじゃあ、相殺っていうより、圧倒だよな。
「お前、何で魔法使えるんだ」
法術に興味ないんじゃなかったのか。そんな強力な魔法を片手で。
「興味ないことと出来ないことは、同義ではないんですよ。王子様」
この場には不釣り合いなほど落ち着いた言葉が、旧道場に響いた。