第72話 「さすがにそこまで言われたら」
ユアンが当てがあると言っていたけど、俺もなにも行動しないというわけにはいかない。
「庭師ってなに? どこにいんの?」
ただいま、お昼の休憩時間。
今日はちゃんと授業に出たぞ。いや、当たり前なんだけどな。
「とりあえず、初めて会ったところに来たけど」
午前中は、あいつらは何も仕掛けて来なかった。まあ、元々キャメルをいじめていたのは放課後だったし。
どうやら昨日は、Bクラスは鍛錬の日だったそうだ。
「なに1人でぶつぶつ言っておるのじゃ」
「うわっ」
突然、真後ろから声が聞こえた。
「このくらいで驚くとは。修行が足りんの」
誰かは、分かっている。でも、真後ろから声がしたら誰でも驚くってものだろ。
「うるさい。脊髄反射だよ。じいさん」
「セキズイハンシャ? なんじゃ、それは」
おっと。危ない。
元の世界では当たり前に習うことでも、こっちで習うとは限らないのか。
「それより、わしを探しとったんじゃろう?」
相変わらず、耳の良いじいさんだ。俺の独り言をどこから聞いていたんだろうか。
「じいさん。剣の修行をつけてくれるって言ってたよな」
「ふむ。そういうことか。いいぞ。では、剣を抜きなさい」
「は?」
いきなり?
「剣を2本抜いて、わしにかかってきなさい」
じいさんは、手に何も持っていない。
「俺は、剣で。じいさんは?」
「おぬしの下手な剣など、かすりもせんわ」
言いやがったな、こいつ。
俺だって、師匠に剣術を教えてもらってたんだ。ただで、終わるわけにはいかない。
俺は、両手に剣を構えた。
「行くぞ」
「いつでも、いいぞ」
じいさんは、余裕な笑みを浮かべている。
「後悔、すんなよ!」
地面を蹴って、じいさんに間合いを詰める。そのまま、右手を横に振る。じいさんは、後ろに避ける。
「しっ」
俺は、左手を下から突き上げた。じいさんは、前モーションもなしにバック転をした。
「なんじゃ、こんなもんかの?」
すごいじいさんだな。勢いも付けずにバック転するとは。
「まだまだぁ!」
右手を突き出す。
「え?」
その瞬間、じいさんが消えた。
「こっちじゃよ!」
左手に衝撃が走る。俺は、思わず剣を手放した。
「これで、終わりじゃ」
どうやら、じいさんは真上に飛んだらしい。そのまま俺の左手を蹴り、右手の剣を地面に押し付けた。
「こんな」
こんな、圧倒的なものなのか。
「まあ、こんなものかのう。おぬし、案外バカじゃのう」
「は?」
いい加減、その口の悪さをどうにかしてほしいんだが。