第70話 「私のせいで(ソディー視点)」
チキナーにおいて、黒色の羽を持って生まれてくることは一種のステータスだ。他の種族には怖がられる能力だが、チキナーの中では尊敬の念を持って見られる。
だけど、私は違った。
「やーい。落ちこぼれー」
小さいころの周りの言葉が頭を占める。
黒色の羽を持って生まれてきた私は、それ以外は何も持たずに生まれてきた。だから、ずっと蔑まれて生きてきた。
「おらよ!」
男性の手が、私の身体から離れる。必然的に、私の身体は床に打ち付けられる。
いじめは、終わったはずだった。キャメルちゃんとDクラスに落とされてからは、誰も手を出してこなかった。
「何で、今さら」
「んだよ。知らないのか。キャメルが約束を破ったんだろ」
「約束?」
そんなの、聞いてない。約束ってなに。
「お前に手を出さない代わりに、キャメルを練習台にするって約束」
「そんな」
それなら、キャメルちゃんはずっと苦しんでたの?
Dクラスに落ちたのも私のせいなのに。いつでも、友達でいてくれたのに。全部私のせいで。私が、落ちこぼれのせいで。
私なんて、生きていても意味ない。
「おら! 大人しくしろよ!」
もうどうでもいい。誰かに助けてもらう資格なんて、私にはないんだ。
「ソディー!」
この声は。
「キャメルちゃん」
それに。確か。
「シュラくん?」
どうしてここに。誰にも言ってないのに。
「俺は、Dクラスのシュラ・イレーゼル。このいじめに加担している全員に言っておけ。キャメルとソディーの代わりに、俺が相手になると」
やめて。私がいけないのに。私なんか助けても。
「意味ないのに」
「意味ないことなんてない! 俺は、ソディーと友達になりたいんだ。仲間になりたいんだ。だから、助けた。もう、傷つかなくていいんだ」
シュラくんが、手を差し伸べてくる。
この小さな手を掴んでいいのだろうか。私のせいで、巻き込んでしまったのに。キャメルちゃんもシュラくんも。
この優しい人たちを傷つけていいの?
「ごめん。もう、関わらないで」
私は、差し伸べられた手から逃げることしかできなかった。