第68話 「初めて声を聞いた気がする」
今日の午後の授業は、学術。普段は、授業に出ないホセが絶対に出る授業だ。
「あんたくらい頭良いなら、逆に出なくてもいいと思うけどね」
「そういうあなたがいるのも珍しいですね、キャメル。そこにいる王子様になんか感化されたのですか?」
キャメルとホセは、教室で顔を合わせてすぐに言い合いを始めやがった。
仲悪そうだなあ。やっぱり、俺が王子様ってばれてるし。
「まあ、僕の邪魔をしなければどうでもいいですが」
ホセは、黒い眼鏡のふちを人差し指で上げた。
細い体躯でまだ幼い顔つきの身体の中には、多くの知識が詰まっているらしい。剣術、法術に興味ないって言っても、何でこいつはDクラスに来たんだ?
キャメルが、俺の顔を見る。何となく、言いたいことが分かった。
「ホセ。邪魔はしようとは思ってないけど、俺と友達になってくれないか。俺は、Dクラスのみんなと仲間になりたいんだ」
ホセの眼鏡と同じ色の瞳が、俺の方を見た。しかし、すぐに手元の本に目を移す。
「僕にそんな趣味はありませんので。他を当たってもらえますか」
どういう意味だよ。
「いや、お前じゃないと意味ないんだけど」
「王子様には、皮肉すら通じないんですか? あなたと仲良くなりたくないと言っているんですよ」
今度は、俺の顔をはっきり見て言った。
ここまで拒絶の色を見せられると、さすがの俺も傷つく。
「何でだよ」
「大切な人を誰も守れないで、仲間になりたいなんて。信じられるわけがないでしょう」
大切な人を守れない? どういう意味だ。
「あなたが今、守らなければいけない人は誰です? ソディーじゃないんですか?」
何で、ホセがそのことを知っている。
俺たちとは反対に、ホセは一切表情を変えない。
「旧校舎3階。早く行った方がいいですよ」
俺は、キャメルの混乱した顔を見る。
正直、ホセが何を言っているのか全く分からない。体良く追い払おうとしているようにも聞こえる。
でも、ここまで言われて行かないわけにもいかない。
「キャメル。行くぞ!」
「え、うん」
混乱したままのキャメルを引きずって教室を出た。
後ろで、ホセが本を閉じる音と、ため息が同時に聞こえた。